最新記事
宗教

LGBTQは受け入れても保守派は排除...「リベラル教皇」で割れるカトリック教会 「文化戦争」の最前線でいま何が?

POPE’S DIVINE INTERVENTION

2024年4月24日(水)16時31分
キャサリン・ファン(国際政治担当)

アルゼンチンの新大統領ミレイと抱き合う教皇

アルゼンチンの新大統領ミレイと抱き合う教皇 VATICAN MEDIA-HANDOUT-REUTERS

教会改革の落としどころは

だが教会内部の伝統派は、左右からの批判に対するフランシスコの対応が不公平だと考えている。例えば聖家族教会のマレー神父。教皇は「シノドスの道」を口先で批判するだけで、教皇の意向に反する彼らの活動に断固たる措置を取っていないと、本誌に語った。

「その気になれば、ドイツの司教たちが『シノドスの道』の主張に従ったり、彼らの活動に資金を提供したりするのを禁止することもできるはずだ。しかし教皇はそれをしない」と彼は言う。「教皇はより保守的な信徒に対しては厳しい姿勢を取る一方で、これまで協力・支援してきたリベラル派の信徒には比較的穏やかな批判しかせず、彼らを罰することもほとんどない」

ビラノバ大学のファッジョーリ教授は、フランシスコがアメリカ教会の伝統派聖職者により厳しい姿勢で接しているのは確かだが、「彼らが世界各地の司教たちより突出しているのもまた事実」だと見る。

アメリカの伝統派と世界各国の進歩派は全く異質で、アプローチの仕方も異なるとファッジョーリは言う。フランシスコを批判するにしても、諸外国の進歩派はそれなりに礼儀正しい言葉を使うが、アメリカの伝統派カトリックはすぐソーシャルメディアに飛び付いて教皇に対する不満を拡散させたがる。

だから教皇フランシスコとアメリカのカトリック教会の関係が「いい方向に向かうとは思えない」とファッジョーリは言い、こう付け加えた。「各国の教会組織との関係はどこでも厄介なものだが、今の教皇にとってはアメリカとの関係が最も波乱含みだ。これは間違いない」

こうした文化戦争の主戦場はアメリカだが、教皇フランシスコの目はしっかり世界を見つめている。

最後に、アメリカ・カトリック大学のウィリアム・ディンジェス教授(宗教学)の総括を聞こう。

「フランシスコはカトリック教会全体を前に進めたいと考えている」とディンジェスは言う。「だから踏み込みすぎて、カトリックの思想を単なる文化としての宗教におとしめるようなことは避けたい。一方で、教会が昔ながらのセクト的なコミュニティーに戻る事態も避けたい。その中間に、うまい落としどころを見つけたい。それが彼の願いだ」

ニューズウィーク日本版 日本時代劇の挑戦
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月9日号(12月2日発売)は「日本時代劇の挑戦」特集。『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』 ……世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』/岡田准一 ロングインタビュー

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ネットフリックス、ワーナー資産買収で合意 720億

ビジネス

米ミシガン大消費者信頼感、12月速報値は改善 物価

ワールド

米中が閣僚級電話会談、貿易・経済関係の発展促進で合

ワールド

NYタイムズ、パープレキシティAIを提訴 無断コピ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い国」はどこ?
  • 2
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開きコーデ」にネット騒然
  • 3
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...ジャスティン・ビーバー、ゴルフ場での「問題行為」が物議
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 9
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 2
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 5
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 6
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 7
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 8
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 9
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 10
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中