最新記事
ガザ紛争

「どうしたらいいか教えてくれ」感染症が蔓延する絶望的環境のなかで医師が語るガザの現実

I’m a Doctor in Gaza

2024年3月14日(木)16時16分
ムサラム・M・アブハリル(ガザ地区で働くパレスチナ人医師)
「どうしたらいいかを教えてくれ」感染症が蔓延する絶望的環境のなかで医療を続ける医師が語るガザの現実

アブハリル(右から2人目)はやれる範囲で最高の医療を提供したいと願う MUSALLAM M. ABUKHALIL

<パレスチナ人医師が語る。攻撃と不衛生な環境で患者の安全は脅かされ、治療に必要な薬も物資も全てが不足。自身にまともな感染防止策が取れなくとも、医師に休みはない>

私はパレスチナ自治区ガザで働くパレスチナ人医師だ。

国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)に雇われ、中部ヌセイラットの難民キャンプにある施設でクリニックを運営し、初期の総合診療に当たっている。

自宅はクリニックの近くにある。

家族は3週間前、南部のラファへ避難した。

イスラエル軍がヌセイラット難民キャンプの大部分を交戦区域に指定したからだ。

ここでは毎日が死と隣り合わせだ。1カ月ほど前には私の通勤路の近くに爆弾が落ちた。帰宅があと2分遅かったら私の体は吹き飛んでいた。

ラファも安全ではなくなった。イスラエル軍の攻撃が近いという情報が聞こえてきて、私は慌てて家族を呼び戻した。

間もなくイスラエル軍が攻め入り、多くの犠牲者が出た。

クリニックには毎日150人近い患者がやって来る。

私たち医師に休みはない。

この難民キャンプへ逃げてくる人たちは例外なく、何らかの疾患を抱えているからだ。

何しろトイレが汚すぎる。しかも同じトイレを何百人もが使うから、下痢や呼吸器系の感染が広まる。

シラミの媒介する感染症も深刻だ。

若い女性や子供の頭皮一面にシラミが湧いている例をたくさん見た。初めての経験だった。

しかも、手元には治療薬がない。頭を洗って清潔に保つのに必要な水もない。

この辺りには国連の運営する学校がいくつかある。

いずれも避難所として使われており、そこには外来のクリニックがあるが、必要な薬や物資は国連からもらうしかない。全てはUNRWA頼みだ。

人ごとだと思わないで

とにかく医療物資が足りないので、まともな感染防止策も取れない。

仕方なく私は、私物のアルコール消毒液やマスクを使っている。その場しのぎだが、ほかに方法がない。

幸いにして私の患者、とりわけ呼吸器系を患う人の多くには改善が見られる。

私自身、この手の感染症への対処法は心得ているし、これでもほかの診療所に比べれば医療物資のストックもある。

でもシラミはお手上げだ。シラミを殺すシャンプーの在庫は尽きた。

だが、私は負けない。

今は自分のやるべきことだけに集中している。自分にできる範囲で、最高の医療を提供することだ。

それ以上に大きな問題は考えないことにしている。政治の話など、私たちには手が届かない。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

メキシコCPI、11月前半は予想上回る コアインフ

ビジネス

ルノーCEO、新EU規則で現地部品調達の定義拡大を

ワールド

為替相場、投機的動向含め高い緊張感持って見極めてい

ワールド

米国防総省、民主議員を「不正」で調査 軍に違法な命
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 10
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中