マレーシアのイブラヒム新国王は、政治にもビジネスにも「野心的」...政策にどれだけ影響するか?
The Billionaire King
国王に即位したイブラヒムには経済特区創設を後押しした実業家の顔も HASNOOR HUSSAINーPOOLーREUTERS
<私兵を持つ大富豪で、ビジネスに積極関与する実業家。イブラヒム新国王はマレーシア君主制の「象徴的役割」を変えるのか>
立憲君主制の下、輪番制で国王を選出する世界で唯一の国、マレーシアで1月31日にイブラヒム新国王が即位した。
この政治的に重要な出来事は、特に富と権力の融合をめぐって、好奇心と懸念の双方を引き起こしている。南部ジョホール州のスルタン(イスラム王侯)である65歳の新国王は国内有数の富豪である一方、率直な政治的発言を行い、政治家批判を繰り広げてきた。
マレーシア国王は従来、限定的な権限を持つ儀礼的役割と見なされてきたが、近年は変化が起きている。2019年に即位したアブドゥラ前国王は5年間の任期中、政局に大きな影響力を行使した。
実業家でもあるイブラヒムは不動産や採鉱業、中国の不動産開発大手が手がけたジョホール州の人工島プロジェクト「フォレストシティー」に出資してきた。私兵も保持していることが、イスラム教徒が多数派の国で、イスラム教の擁護者とされる国王の象徴的役割に複雑な影を落とす。
政治・経済政策に積極的に関与する姿勢
多くの先任の国王と異なり、イブラヒムは政治について積極的に発言し、アンワル・イブラヒム首相とも親しい。マレーシアとシンガポールは今年1月、ジョホール州にまたがる国境部で経済特区を共同開発する覚書に調印した。この経済特区創設を主張していたのが、イブラヒムだ。
政治・経済政策決定に積極的に関与する姿勢は、その経済的利害関係と相まって、イブラヒムの影響力の規模や性質に疑問を投げかけている。
つまり、懸念の核にあるのは、本人の経済的利益と国王としての責任のバランスだ。手詰まり状態のフォレストシティーをはじめ、イブラヒムの事業の複雑さは、大規模経済開発への国王の関与、および地域社会や環境への潜在的影響に視線を集めている。
さらに、イブラヒムは政治の安定化に貢献したいと表明している。18年以降、首相が4度交代したマレーシアは異例の流動状態に揺れてきた。
同国憲法は国王の権限を明確に定め、首相や内閣の助言に従うことを求めるが、近年は国王の介入の度合いが増している。22年の総選挙後の政治危機では、アブドゥラがアンワルの首相任命に積極的に動き、組閣交渉に関与した。