最新記事
中東情勢

イスラエル軍の「ラファ地上侵攻」はアメリカの中東政策を破壊する

Biden Faces New Problem Over Israel's Rafah Offensive

2024年2月13日(火)18時50分
ダニエル・ブッシュ(本誌ホワイトハウス担当)
イスラエルの空爆で家を破壊されたガザ住民

イスラエルの空爆で家を破壊されたガザ住民 Abed Rahim Khatib/dpa via Reuters Connect

<ラファ地上侵攻が行われれば、アラブ諸国で初めてイスラエルを承認したエジプトが、イスラエルとの平和条約を停止すると警告。アメリカが仲介して成った中東政策の土台までもが、バイデン政権の下で失われる?>

イスラム組織ハマスとの戦いを続けるイスラエルは、パレスチナ自治区ガザ最南端のラファへの地上侵攻を計画している。これは、何十年にもわたってアメリカの中東政策を下支えしてきたエジプトとアメリカの関係を悪化させるおそれがあり、ジョー・バイデン米大統領にとって新たな悩みの種となっている。

エジプトは、イスラエルがラファへの地上侵攻を開始すればイスラエルとの平和条約を停止すると警告している。エジプトとの国境沿いに位置するラファには、イスラエルとハマスの戦闘が始まって以降、大勢のパレスチナ人が避難してきている。イスラエル軍がガザ住民に南部への退避を指示したこともあり、100万人を超えるパレスチナ人がここに密集している。

エジプトとイスラエルの外交関係の停止は、バイデンにとって打撃になりかねない。バイデンの任期中に中東地域が手に負えない状況に悪化しているという見方を助長する可能性があるためだ。米シンクタンク「アラブ・アメリカ研究所」の創業者兼所長であるジェームズ・ゾグビーは、アメリカの軍事支援を受ける忠実な同盟国のエジプトが、イスラエルとの歴史的な平和条約の停止を公然と示唆したことは、きわめて異例だと指摘する。

「エジプト政府がよほど大きな圧力にさらされていることを意味している」と彼は本誌に語った。

歴代米大統領が頼りにしてきたエジプト

こうしたなか、イスラエルは2月12日にラファで空爆を含む作戦を実行し、人質2人を救出したと発表。ガザの保健省はこの空爆で67人が死亡したとしており、イスラエル軍がラファへの本格侵攻を始めれば、民間人の犠牲がさらに増えるのではという懸念が高まっている。ハマスは依然として、10月7日にイスラエルから拉致した100人以上を人質に取っているとみられている。

中東問題のアナリストや人道支援団体は、イスラエル軍によるラファへの本格侵攻は、地域全体をますます不安定化させる可能性があると指摘している。パレスチナとイスラエルの和平を求めるアメリカのユダヤ・ロビー「Jストリート」の代表であるジェレミー・ベンアミは本誌に対して、「人質を奪還し、人道状況をこれ以上悪化させないようにするには、外交が最善の手段だ」と述べた。

ジミー・カーター以降の歴代米大統領は、1979年にアメリカの仲介によってエジプトとイスラエルの間で締結された平和条約を、中東のより幅広い安定を推し進める土台としてきた。

エジプトは、アラブ諸国として初めてイスラエルを承認。これが1994年のイスラエル・ヨルダン間の和平条約に扉を開き、ドナルド・トランプ米前政権下で結ばれたイスラエルと一部アラブ諸国の国交正常化合意(アブラハム合意)につながった。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

伊藤忠、西松建設の筆頭株主に 株式買い増しで

ビジネス

英消費者信頼感、11月は3カ月ぶり高水準 消費意欲

ワールド

トランプ氏、米学校選択制を拡大へ 私学奨学金への税

ワールド

ブラジル前大統領らにクーデター計画容疑、連邦警察が
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中