英国王チャールズ3世が癌に...病状が悪化した場合にイギリスが迫られる3つの選択
After the Diagnosis
昨年11月、ロンドンの戦没者追悼式典に出席したチャールズ国王とウィリアム皇太子 KIN CHEUNGーPOOLーREUTERS
<「これからどうなる」チャールズ3世の病状に懸念を募らせるのは英国民だけではない。症状が悪化した場合、英連邦全体の問題に発展する可能性も>
英国王チャールズ3世が癌と診断された。憲法上の義務を果たせなくなれば、どうなるのか。
バッキンガム宮殿の発表によれば、治療中も事務的な執務は続け、週1度の首相との定例会談も続けるという。
だが症状が悪化したら?
その場合、選択肢は3つある。国務参事官、摂政、退位だ。
まず国務参事官から見ていこう。
英国王は通常、外遊中に執務の一部または大半を国務参事官に任せる。闘病中もそれは可能だ。2人の国務参事官が合同で法律の裁可、外国の大使の接受、枢密院会議の招集といった任を果たす。
国務参事官に任命されるのは国王の伴侶と王位継承順に4人までの成人。該当者はカミラ王妃、ウィリアム皇太子、ヘンリー王子、アンドルー王子、ビアトリス王女だ。
ヘンリー王子は王室を離脱してアメリカに住んでいるし、公務を控えているアンドルー王子とその長女のビアトリス王女も適任ではない。
となるとカミラ王妃とウィリアム皇太子だけが有資格者となる。
ただし、2022年に成立した新法でアン王女とエドワード王子も国務参事官を務められることになった。
国務参事官は国王の務めの大半を担うが、議会の解散権を行使できるのは国王の指示がある場合のみ。
また爵位の授与もできない。首相の任免権を持つかどうかについては検討の余地がある。
国王と最も顕著に違うのは、国務参事官は英連邦のうち英国王を元首とするイギリス以外の14カ国に権限を及ぼせないことだ。
第2の選択肢は摂政だ。
国王が「心身の衰弱により一時的に役目を果たせない場合」には摂政が置かれる。
いつ、どの程度の期間、摂政を置くかは国王自身には決められない。
国王の伴侶、大法官、下院議長、イングランド首席判事卿、控訴院記録長官のうち3人以上の宣言で決まる。
退位は回避の公算が大
イギリスの王位継承法では、継承順位1位のウィリアム皇太子が摂政を務めることになる。
摂政は英国内では国王と同じ権限を持つが、王位継承順位を変える権限はない。
摂政法では、摂政の権限が及ぶのはイギリス国内だけ。
カナダやオーストラリア、ニュージーランドなど英国王を元首とする国々には、摂政は何の権限も持たない。
ニュージーランドは憲法にイギリスの法律で摂政となった人が自国の元首の務めを果たすという条項を入れ、この問題を解決した。
だがオーストラリアは何の対策も取っていないため、ウィリアム皇太子が摂政になった場合もオーストラリアの元首の役目は果たせない。
3つ目の選択肢は、公務を遂行できなくなった君主の退位だ。
これは異例の事態で、英国王を元首とする英連邦の国々はどう対応すべきか頭を抱えることになる。
1936年にエドワード8世が愛する女性と結婚するために退位を決意したときには、国王自身が作成した退位詔書と、英議会が制定し英連邦の加盟国も承認した退位法に基づき、正式な手続きが取られた。
だが今では英連邦加盟国の承認は簡単には得られそうにない。
例えばオーストラリアは、86年に制定された法律で立法府の完全な独立を達成し、英議会が制定した法律は国内では適用されなくなった。
そのためチャールズが退位すれば、オーストラリアは独自に元首の退位手続きを行う法整備が必要になる。
さらに元首の継承者については、オーストラリアの法律に含まれる王位継承に関する規定、すなわちビクトリア女王の継承者について書かれた、オーストラリア連邦憲法第2節の「連合王国(イギリスのこと)の主権の相続人と継承者」が今回も適用されるかどうかが議論されることになり、紛糾は避けられない。
オーストラリア以外でも、英国王を元首とする国々では厄介な法的問題が生じることが予想されるため、退位という選択肢は回避される公算が大きい。
万一に備えて法整備を
では、チャールズが公務を十全に遂行できない状態になり、国務参事官か摂政が務めを代行することになった場合、英国王を元首とする国々にはどんな影響が及ぶだろう。
オーストラリアの場合、今も残っている元首としての英国王の実質的な権限は、連邦総督と州総督の任免権だけだ。
現在の連邦総督の任期は今年半ばに切れるため、その時点でチャールズの病状が悪化していれば、国務参事官も摂政も総督を任命する権限がないため、オーストラリア連邦の総督は空席となる。
ただ、次期総督が決まるまで、現職のデービッド・ハーリーが職務を続行することも可能だ。
ハーリーが任期満了で退任した場合は、一時的に州総督が行政官として総督代理を務めることになる。
これは総督のポストが空席になった場合の慣行だ。州総督が行政官になった州では副総督(多くの場合、州最高裁判所長官を兼務)が代行を務める。
とはいえ、これはあくまで一時的な措置で、摂政制が何年も続く場合はいずれ何らかの法整備が必要になるだろう。
また摂政は、総督を罷免する権限も持たない。
オーストラリアでは1975年、ねじれ議会による政治の機能不全を見かね、総督が慣習を破って首相を解任し、「憲政上の危機」と呼ばれる事態に陥ったことがある。
国王は首相の助言を受けて総督を罷免できるが、摂政には罷免権がないから、総督が大胆になり、オーストラリアの内政に首を突っ込むことにもなりかねない。
こうした問題は、法改正により解決できるはずだ。
オーストラリアでは2015年にジェンダー差別をなくすため王位継承法が改正された。
この例に倣い、摂政がオーストラリアに対しても総督任免などの権限を行使できるよう州と連邦レベルで法整備を進めればいい。
英国王を元首とする英連邦の国々は植民地時代から続く特殊な法的事情を抱えている。
チャールズ国王の回復を祈りつつ、万一に備えた事前の準備が必要だ。
Anne Twomey, Professor emerita, University of Sydney
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
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