「株式会社ハマス」の時価総額は5億ドル超、世界各地の系列企業の資金網がガザを支える

HAMAS, INC.

2024年2月9日(金)10時36分
ショーン・オドリスコル(犯罪捜査担当)

240213p18_HMS_06.jpg

23年10月7日のハマスの奇襲で60人以上が殺害されたイスラエルのキブツ(農業共同体) ANDREW LICHTENSTEINーCORBIS/GETTY IMAGES

アメリカは現在、こうした企業とその経営幹部も対ハマス制裁の対象に含めている。

「ハマスはイランから受け取る資金に加え、海外で数億ドルの資産を運用して巨額の利益を生み出しており、その関連企業はスーダンやアルジェリア、トルコ、UAE、その他の国々で活動している」。

米財務省は23年10月18日に制裁リストを更新した際にそう指摘し、さらに「この投資ネットワークはハマスの最高レベルが動かしており、過酷な生活・経済条件の下で苦しむガザ地区の一般パレスチナ人をよそに、ハマスの幹部たちは贅沢な暮らしを続けている」と糾弾した。

イスラエル政府も、こうした建設会社をハマスの資金源と見なしている。

在米イスラエル大使館は昨年10月29日の声明で、ハマス政治局副議長のムーサ・アブ・マルズークの資産総額を30億ドル、同じく幹部のハレド・メシャルとイスマイル・ハニヤは各40億ドルと見積もっている。

なぜハマスは不動産で稼ごうとするのか。

本誌の取材に応じた英王立統合軍事研究所(RUSI)の研究員スティーブン・ライマーによれば、「不動産を建設し、売却して利益を生み出す手法は資金の流れをごまかすのに好都合」だからだ。

RUSIの金融犯罪・安全保障研究部門に属し、テロ組織の資金源に詳しいライマーに言わせると「建設や土地・不動産開発業界に対する金融犯罪規制は、どこの国でもかなり緩い」。

だからハマス系の開発業者が「資金を出して集合住宅を建て、それを住戸単位で売りに出したとしても、それがハマスの建てた家だと気付く人はいない」。

以下、ハマスの資金源ネットワークを国ごとにあぶり出す。

◇ ◇ ◇


■トルコ

一見したところ、ヒシャム・ユニス・ヤヒヤ・カフィシェの履歴書は完璧で、とてもテロ組織の「分子」とは思えない。

1956年9月1日に当時のヨルダン領ヘブロンに生まれた。

サウジアラビアのアブドル・アジズ国王大学で会計学を専攻し、78年に卒業。その後はサウジアラビアにあるフランス系企業に就職し、87年から05年までは同国ジッダにあるホテル会社で経理部の管理職を務めた。

アラビア語を母語とし、英語を話す。

ここまでの経歴は、トルコ企業の「トレンドGYO」が18年の公募増資に際して財務当局に提出した資料に含まれている。

だが重要な2つの事項が欠けている。

まず、21年3月25日付のトルコの商取引登録官報によれば、カフィシェは新たにトルコ名を名乗り、トルコ国籍を取得している。

改名と国籍変更で、彼は国境を越えて移動しやすくなった可能性がある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア政府系ファンド責任者、今週訪米へ 米特使と会

ビジネス

欧州株ETFへの資金流入、過去最高 不透明感強まる

ワールド

カナダ製造業PMI、3月は1年3カ月ぶり低水準 貿

ワールド

米、LNG輸出巡る規則撤廃 前政権の「認可後7年以
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中