「株式会社ハマス」の時価総額は5億ドル超、世界各地の系列企業の資金網がガザを支える
HAMAS, INC.
アメリカは現在、こうした企業とその経営幹部も対ハマス制裁の対象に含めている。
「ハマスはイランから受け取る資金に加え、海外で数億ドルの資産を運用して巨額の利益を生み出しており、その関連企業はスーダンやアルジェリア、トルコ、UAE、その他の国々で活動している」。
米財務省は23年10月18日に制裁リストを更新した際にそう指摘し、さらに「この投資ネットワークはハマスの最高レベルが動かしており、過酷な生活・経済条件の下で苦しむガザ地区の一般パレスチナ人をよそに、ハマスの幹部たちは贅沢な暮らしを続けている」と糾弾した。
イスラエル政府も、こうした建設会社をハマスの資金源と見なしている。
在米イスラエル大使館は昨年10月29日の声明で、ハマス政治局副議長のムーサ・アブ・マルズークの資産総額を30億ドル、同じく幹部のハレド・メシャルとイスマイル・ハニヤは各40億ドルと見積もっている。
なぜハマスは不動産で稼ごうとするのか。
本誌の取材に応じた英王立統合軍事研究所(RUSI)の研究員スティーブン・ライマーによれば、「不動産を建設し、売却して利益を生み出す手法は資金の流れをごまかすのに好都合」だからだ。
RUSIの金融犯罪・安全保障研究部門に属し、テロ組織の資金源に詳しいライマーに言わせると「建設や土地・不動産開発業界に対する金融犯罪規制は、どこの国でもかなり緩い」。
だからハマス系の開発業者が「資金を出して集合住宅を建て、それを住戸単位で売りに出したとしても、それがハマスの建てた家だと気付く人はいない」。
以下、ハマスの資金源ネットワークを国ごとにあぶり出す。
■トルコ
一見したところ、ヒシャム・ユニス・ヤヒヤ・カフィシェの履歴書は完璧で、とてもテロ組織の「分子」とは思えない。
1956年9月1日に当時のヨルダン領ヘブロンに生まれた。
サウジアラビアのアブドル・アジズ国王大学で会計学を専攻し、78年に卒業。その後はサウジアラビアにあるフランス系企業に就職し、87年から05年までは同国ジッダにあるホテル会社で経理部の管理職を務めた。
アラビア語を母語とし、英語を話す。
ここまでの経歴は、トルコ企業の「トレンドGYO」が18年の公募増資に際して財務当局に提出した資料に含まれている。
だが重要な2つの事項が欠けている。
まず、21年3月25日付のトルコの商取引登録官報によれば、カフィシェは新たにトルコ名を名乗り、トルコ国籍を取得している。
改名と国籍変更で、彼は国境を越えて移動しやすくなった可能性がある。