統治の不安と分断がもたらす政治参加
「分断」と「統治の不安」の二重構造が投票外の政治参加を促進する
日本社会の中の多次元的な対立の中で(遠藤記事)、今回は、全体として対立をどの程度、多様に認識しているかの尺度を作成し(対立していると認識する領域の数を加算:最大18ポイント:図2右)、この分断対立の軸と日本の民主的統治度の認識(図2左)が、日本人の政治への関与の中でいかなる意味を持つかを示そう。多変量解析という分析の手法部分は省略するが、見いだされたのは2点である。
図2
第1に、図3に見るように、投票に行くかどうかという制度化された政治参加には、国が民主的に統治されていると認識するほど投票するという度合いは高いが、統治の不安や対立の認識とは関連していない。これと対照的に、投票以外の政治への関与を示す投票外参加、つまり誓願書の署名、寄付やカンパ、地域ボランティア参加、政治家や役所との接触、市民運動・住民運動への参加、デモ参加などの行動に対しては、統治の不安の高さや対立の認知が強いことが促進要因であった。
図3
第2に、投票外参加の構造をより詳細に検討すると、図4に示すように、日本の民主的統治の度合いを低く評価し、しかも対立を強く認識していると、投票外政治参加は大きく促進される。図の最右の4本のバーは対立の認識が高いグループ内での統治度認識の差を示しているが、ここで差は最大となる。逆に、対立していても民主的統治度認知を信じる限りそれほど参加は推進されず、図の左側の対立認知の低いグループと参加度の差異はない。
図4
まとめると、投票という制度の下での行動には対立の認識に大きなインパクトはないが、投票の外での政治参加には、国がまともに統治されていないと認識し、統治の不安があるようなときに対立が参加を加速する。ならば、投票外参加は分断を加速させるだけなのか、あるいは分断から抜け出すには日本の民主主義を心配して投票以外の場で政治に関わるしかないのか、よく考える必要があるだろう。
連載シリーズの終わりに
第1回目のSMPP調査では、日本で現在生じている「分断」と「対立」の社会的なリアリティを明らかにしようと試みてきた。それは米国で起きていることと同じではない。日本における分断と対立が何をもたらし、どんなインパクトを持ち得るかは、日本のデータを精査した上でしか予測も対応策の検討も出来ない。
SMPP調査は、10年をかけて(2年ごとに5回調査する)日本人の価値観を追うプロジェクトである。我々はこの調査を通じて、日本の分断の構造が何をもたらすかを追跡し、またそこでメディアが果たす機能を明瞭に議論できる基本データを提供していきたいと考えている。
池田謙一(いけだ・けんいち) 同志社大学社会学部メディア学科教授
東京大学大学院人文社会系研究科社会心理学研究室で21年教鞭を執った後、2013年4月より現在まで同志社大学社会学部メディア学科教授。政治コミュニケーション、政治文化、政治参加に関わる国際比較調査を続けている。日本人の統治の不安に関わる英語単著を2023年に出版した。

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