最新記事
能登半島地震

少子高齢化の「漆器の里」を襲った非情な災害――過酷すぎる輪島のリアルから見えるもの

HOME WITH DESPAIR

2024年1月26日(金)15時30分
小暮聡子(本誌記者)

FUTAIMASAHARU.jpg

丹精込めて作り上げた漆器たちを一瞬にして奪われた二井雅晴 KOSUKE OKAHARA FOR NEWSWEEK JAPAN

二井は地震直後、2人暮らしの母親を車に乗せてなんとか避難できた。奇跡的に車がつぶれなかったからだ。駐車場の隣の空き家は大きく崩れ落ちていた。


「私だけなら走って避難所に逃げることができますが、母親がいますんで、車がないと。その母親も、今は体調を崩して金沢の病院に入院しています」と、二井は言う。「避難所にいるとねぇ、初めのうちはまだあれなんですけど、みんなだんだん健康状態が崩れて、高齢の人ほど救急隊に運ばれていきます」

輪島市の人口は23年12月時点で2万1980人、そのうち老年人口(65歳以上)は22年10月の推計で全体の47.9%を占める。奥能登では珠洲市、能登町、穴水町がいずれも50%を超え、07年から22年の15年間で輪島市、珠洲市、能登町と穴水町の老年人口は37.6%から50.3%と急増した。

高齢者が多数を占める避難所にあって、深刻な問題となっているのが断水による衛生環境の悪化だ。輪島市では今もほぼ全域で断水が続き、二井の避難所には電気も来ていないという。

「避難所の中でも、たぶん70代の方だったと思うんですけど、立って歩いていていきなり、口からもどしてしまったんです。その方は病院に運ばれたんですが、またすぐに戻ってきて、元いた場所の布団に寝てらして、そしたらまた2度目、もどしてしまって......。感染のことを考えて今度は簡易式のテントを持ってきて、そこに隔離されました」

避難所では、新型コロナウイルスやインフルエンザを含む感染症の患者が出ている。ただでさえ高齢者が多い地域で、寒さが続くなか風呂にも入れず、使い慣れない仮設トイレに苦労し、排泄を我慢し水分を控える。

輪島市の避難所に身を寄せる女性(78)は、避難所の災害用簡易トイレの「粉入れて90秒待て」という手順に「90秒、長いんだわ!」と憤慨していた。排泄物を固めるための凝固剤を入れて袋が自動的に閉まるまで90秒かかるが、使い方を間違えた誰かが汚したトイレの中でなど、待っていられないという。

取材に訪れた七尾市と輪島市では、出会う人全てが「トイレ問題」を口にした。例えば電話ボックスのようなよく見る形の仮設トイレは、和式便器の横にあるポンプを足で踏むと水が流れる。こうした「ある程度まし」なトイレが途中から入った避難所もあるが、高齢者が和式にかがむのは難しいし、汚れもする。

16日に石川県は七尾市の水道の復旧見通しを2カ月以上先と発表したが、奥能登の輪島市と珠洲市などについては復旧のめどすら示されなかった。清潔なトイレを使えないのは、衛生上の問題であるだけではなく、被災者から人としての尊厳を奪う。(1月26日時点追記: 1月21日、石川県は水道の復旧見通しについて輪島市や珠洲市などでは早くても2月末から、七尾市の中心部などでは4月以降になると発表した)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

英首相、辞任要求にも続投表明 任命問題で政権基盤揺

ビジネス

NEC委員長、雇用の伸び鈍化見込む 人口減と生産性

ワールド

中国BYD、米政府に関税払い戻し求め提訴 昨年4月

ワールド

EU、第三国の港も対象に 対ロ制裁20弾=提案文書
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 2
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...周囲を気にしない「迷惑行為」が撮影される
  • 3
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近したイラン製ドローンを撃墜
  • 4
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 5
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 6
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 7
    「二度と見せるな」と大炎上...女性の「密着レギンス…
  • 8
    変わる「JBIC」...2つの「欧州ファンド」で、日本の…
  • 9
    韓国映画『しあわせな選択』 ニューズウィーク日本…
  • 10
    【銘柄】なぜ?「サイゼリヤ」の株価が上場来高値...…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 4
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 5
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 6
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 7
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 8
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 9
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 10
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 7
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 8
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 10
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中