少子高齢化の「漆器の里」を襲った非情な災害――過酷すぎる輪島のリアルから見えるもの
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二井は地震直後、2人暮らしの母親を車に乗せてなんとか避難できた。奇跡的に車がつぶれなかったからだ。駐車場の隣の空き家は大きく崩れ落ちていた。
「私だけなら走って避難所に逃げることができますが、母親がいますんで、車がないと。その母親も、今は体調を崩して金沢の病院に入院しています」と、二井は言う。「避難所にいるとねぇ、初めのうちはまだあれなんですけど、みんなだんだん健康状態が崩れて、高齢の人ほど救急隊に運ばれていきます」
輪島市の人口は23年12月時点で2万1980人、そのうち老年人口(65歳以上)は22年10月の推計で全体の47.9%を占める。奥能登では珠洲市、能登町、穴水町がいずれも50%を超え、07年から22年の15年間で輪島市、珠洲市、能登町と穴水町の老年人口は37.6%から50.3%と急増した。
高齢者が多数を占める避難所にあって、深刻な問題となっているのが断水による衛生環境の悪化だ。輪島市では今もほぼ全域で断水が続き、二井の避難所には電気も来ていないという。
「避難所の中でも、たぶん70代の方だったと思うんですけど、立って歩いていていきなり、口からもどしてしまったんです。その方は病院に運ばれたんですが、またすぐに戻ってきて、元いた場所の布団に寝てらして、そしたらまた2度目、もどしてしまって......。感染のことを考えて今度は簡易式のテントを持ってきて、そこに隔離されました」
避難所では、新型コロナウイルスやインフルエンザを含む感染症の患者が出ている。ただでさえ高齢者が多い地域で、寒さが続くなか風呂にも入れず、使い慣れない仮設トイレに苦労し、排泄を我慢し水分を控える。
輪島市の避難所に身を寄せる女性(78)は、避難所の災害用簡易トイレの「粉入れて90秒待て」という手順に「90秒、長いんだわ!」と憤慨していた。排泄物を固めるための凝固剤を入れて袋が自動的に閉まるまで90秒かかるが、使い方を間違えた誰かが汚したトイレの中でなど、待っていられないという。
取材に訪れた七尾市と輪島市では、出会う人全てが「トイレ問題」を口にした。例えば電話ボックスのようなよく見る形の仮設トイレは、和式便器の横にあるポンプを足で踏むと水が流れる。こうした「ある程度まし」なトイレが途中から入った避難所もあるが、高齢者が和式にかがむのは難しいし、汚れもする。
16日に石川県は七尾市の水道の復旧見通しを2カ月以上先と発表したが、奥能登の輪島市と珠洲市などについては復旧のめどすら示されなかった。清潔なトイレを使えないのは、衛生上の問題であるだけではなく、被災者から人としての尊厳を奪う。(1月26日時点追記: 1月21日、石川県は水道の復旧見通しについて輪島市や珠洲市などでは早くても2月末から、七尾市の中心部などでは4月以降になると発表した)