最新記事
能登半島地震

発災10日後も寝具が届かず...能登入りした医師が断言、災害支援成功に不可欠な「ある人材」とは?

A LESSON FOR JAPAN

2024年1月26日(金)18時00分
國井 修(医師、公益社団法人「グローバルヘルス技術振興基金」CEO)

「1週間に1日は休むべき」

珠洲市災害対策本部で毎晩実施された会合にも参加したが、自衛隊、中央省庁や他の自治体からの応援、DMATやPWJなどがそれぞれの活動を報告し、孤立集落の捜索・救出・救命から、ライフラインの復旧、支援物資の物流、2次避難所への搬送まで、現在直面しているさまざまな問題点や課題を議論し、解決策を模索し翌日の行動に移していった。

昼夜を徹して、みんな必死に努力していた。それでも現場を訪れると、発災10日を過ぎても寝具が届かず新聞紙の上で寝ている、食事はおにぎりと菓子パンのみ、排泄物が垂れ流しの高齢者にまともな介護ができない、といった問題が散見された。

また必要な物資が届かず、逆に急を要しない物があり余るほど届いている避難所もあった。市の支援物資集積所を見ると、使った毛布や医薬品、古着、ぬいぐるみなどの個人からの寄付が、限られたスペースを占領している。これらの仕分けや分配には時間や手間がかかるわりに、現地の膨大なニーズは満たせない。個人が自らの車で支援物資を運んでくることもあるが、被災地までの交通渋滞につながることもある。

必需品を大量に提供できない限り、原則として個人のモノの寄付は避けるべきだ。被災した自治体や真に貢献できる民間団体にカネを寄付してまとまった支援に使ってもらうのがいい。現場で必要としている物を、優先順位を付けながら迅速に現場まで届ける。繰り返すが、その鍵はロジであり、珠洲市においてもそれが大きな課題だった。

私は欧米に住んでいたが、日本の物流業界の技術や専門性の高さには驚かされる。大も小も、生ものも壊れやすいものも、多くは注文した翌日に、好きな時間帯に受け取ることができる。

このような優れた技術や知見を災害支援に応用できないだろうか。マニュアル・アナログではなく、デジタル化して「抜け漏れ」を避け、分析や統合を自動化し、簡単に可視化できるロジのシステム、必要としている物資やサービスを最も困っている人々により早くより効率よく送り届けるシステム。日本でできないはずはない。

今回も、自ら被災しながら支援活動の中心になっている自治体職員や、学校長など避難所の施設責任者の本音を現場で聞いた。自分の家族と会って話す時間もないほど働き、夜に避難所で休もうとしても周りの避難者から頼られて休めない。外部からの支援者は1週間程度で被災地を離れられるが、彼らはずっとそこで支援を続ける。復旧・復興を考えると年の単位だ。彼らの負担をいかに減らすか。これも外部支援者の役割として重要だ。

ビジネス
「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野紗季子が明かす「愛されるブランド」の作り方
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

台湾は31日も警戒態勢維持、中国大規模演習終了を発

ビジネス

中国、26年投資計画発表 420億ドル規模の「二大

ワールド

ロシアの対欧州ガス輸出、パイプライン経由は今年44

ビジネス

スウェーデン中銀、26年中は政策金利を1.75%に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 8
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中