最新記事
能登半島地震

発災10日後も寝具が届かず...能登入りした医師が断言、災害支援成功に不可欠な「ある人材」とは?

A LESSON FOR JAPAN

2024年1月26日(金)18時00分
國井 修(医師、公益社団法人「グローバルヘルス技術振興基金」CEO)

災害派遣医療チームの活躍

通常、DMATなどの災害時の派遣医療チームは、平時には病院などで働き、災害時にボランティアとして1週間ほど派遣される。しかし、ARROWSは平時から約20名の常勤者と約500名の登録者を抱え、レスキュー隊から災害救助犬、ロジスティシャン、ヘリコプターや固定翼機、船、四輪駆動車両を持ち、捜索・救出・救命から物資支援・医療支援まで、現場で必要なさまざまな支援を独自に展開できる。今回も孤立集落や避難所への物資・医療支援から、救出・救命、そして救急患者のヘリ搬送など大活躍だった。

国際的にはこのようなロジの力・機動力を持つNGOは少なくない。固定翼機やヘリで大量の物資を運び、「野戦病院」を造り、大量のシェルターや水衛生器材で大きな難民キャンプを設営してしまうNGOまである。日本でも大規模災害の際には自衛隊だけでは足りず、国内外の災害支援にたけたPWJ・ARROWSのようなプロフェッショナルの民間組織がもっと必要かもしれない。各自治体の緊急支援に関わる人材やロジの力を高めるためにも、このような経験値と専門性の高い民間団体の協力が重要だ。

発災10日後。珠洲市には小・中学校、高校、保育所、公民館、集会場を含め70以上の避難所が林立していた。私もそのいくつかを回り、アセスメント(評価)や物資支援、感染症対策などに関わった。自衛隊やDMATチームも各避難所を回り、物資や医療支援を行っていたのだが、簡単にはニーズを満たせない。

往々にして、大規模災害ではアクセスのいい避難所には多くの支援が集まり、アクセスの難しい避難所には支援がなかなか届かない。04年のスマトラ島沖地震・津波の際にスリランカを訪れた時、最大都市コロンボの近郊にある避難所には世界中からの医療チームが入って、両手いっぱいに薬をもらっている避難者を見る一方、南東部の辺地では津波に巻き込まれて誤嚥性肺炎になっても治療する医療チームがおらず、死んでいった人たちがいた。

程度の差はあるが、阪神淡路大震災でも全国から集まった医療者やチームは行きやすい避難所に集中し、車や徒歩で行きにくい場所にはなかなか到達しなかった。この教訓を受けて、96年に兵庫県で制度化されたのが災害医療コーディネーターで、その後研修が始まり、全国的に広がっていった。

災害急性期に一人でも多くの命を助けられる機動性を持った組織としてつくられたのが05年に発足した災害派遣医療チーム(DMAT)である。災害拠点病院などで研修を受けた医師、看護師、調整員などがチームを編成し、現在、全国に700隊以上あり、今回の能登半島にもこれまで100隊以上が派遣されている。

避難所などで災害関連死や感染症などを防ぐ保健医療活動も重要である。そこで18年に設置されたのが、災害時健康危機管理支援チーム(DHEAT)。専門研修を受けた医師や薬剤師、保健師など主に保健所職員が、被災地で保健所が行う保健医療行政の指揮調整機能等を応援する。今回の災害でもDHEAT、さらに他の自治体から派遣された保健師などの役割は大きかった。

ガジェット
仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、モバイルバッテリーがビジネスパーソンに最適な理由
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

世界の石油市場、26年は大幅な供給過剰に IEA予

ワールド

米中間選挙、民主党員の方が投票に意欲的=ロイター/

ビジネス

ユーロ圏9月の鉱工業生産、予想下回る伸び 独伊は堅

ビジネス

ECB、地政学リスク過小評価に警鐘 銀行規制緩和に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 5
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 6
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 7
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 8
    「ゴミみたいな感触...」タイタニック博物館で「ある…
  • 9
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 10
    【クイズ】韓国でGoogleマップが機能しない「意外な…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中