米大統領選、トランプは「黒人票」で勝利へ──黒人層が「バイデンはオバマになれない」と失望したワケ
Trump’s Secret Weapon
2020年選挙の結果を覆そうとした疑いで訴追されたトランプの黒人支持者たち(昨年8月、ワシントンDC) KENT NISHIMURA/GETTY IMAGES
<生活苦でバイデン政権に失望した黒人男性が激戦州で民主党を見捨てれば、前大統領がホワイトハウスに帰って来る>
今年11月の米大統領選挙で、ドナルド・トランプ前大統領は歴代の共和党候補の誰よりも多くの黒人票を獲得する可能性がある。
ブルームバーグが全米規模および激戦州での世論調査結果を精査したところ、共和党の予備選でトップを走るトランプは現時点で、黒人票の14~30%を確保している。ピュー・リサーチセンターによると、前回2020年の大統領選では約8%だったから、驚異的な伸びであり、票数に換算すれば共和党候補として歴代最多となる見込みだ。
米政治専門サイトのポリティコが引用した全米黒人地位向上協会(NAACP)の推定によると、1960年の大統領選挙では約500万のアフリカ系アメリカ人が投票に行き、その32%が共和党候補のリチャード・ニクソンに票を入れていた。なお国勢調査の数字を見ると、当時の黒人は総人口の10.83%を占め、実数では1941万8190人だったが、今は13.6%で4693万6733人だ。
黒人の投票率はどうか。統計会社スタティスタによると、データが入手可能となった最も古い時点である1964年の選挙では58.5%で、前回2020年は58.7%だった。つまり、ほぼ変わっていない。そうであれば、今回のトランプが黒人票の13%以上を獲得すれば、得票率では60年のニクソン以降で最高、実数では史上最多となる。
民主党現職のジョー・バイデンはどうか。ピュー・リサーチセンターによれば、前回20年には黒人票の92%を獲得。これがジョージアやペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシンといった激戦州での勝利につながった。ジョージア州では黒人票の88%を集め、1万1779票の僅差ながらもトランプに競り勝っている。
「黒人の命も大事だ」のような運動も風化した
だが昨年末の時点で、バイデンは黒人の支持をかなり失っていた。ブルームバーグ・ニューズとモーニングコンサルトによる合同世論調査によれば、23年10~12月には激戦7州で黒人有権者の支持率が7ポイントも低下し、61%になっていた。一方、黒人のトランプ支持率は25%前後で安定的に推移している。
仮にもトランプが激戦州でバイデンより多くの黒人票を獲得すれば、彼が大統領に復帰する可能性は高まる(本誌は両陣営にコメントを求めたが回答は得られなかった)。
ペンシルベニア州立大学のメアリー・フランシス・ベリー教授(歴史学)は本誌の取材に対し、背景には経済的な理由があるとした。
「インフレ率は下がったが、今でも黒人男性は食品など生活必需品の価格高止まりに不満を抱いている」とベリーは言う。「中小企業の経営者にも、トランプ政権時代のほうが連邦政府からの融資を受けやすかったという人がいる」。かつての「黒人の命も大事だ」のような運動も風化し、今はその反動もあるという。