最新記事
能登半島地震

自衛隊を「災害時の何でも屋」にしてしまっている日本...必要なのは日本版FEMAの創設だ

JAPAN NEEDS ITS OWN FEMA

2024年1月23日(火)20時20分
高橋浩祐(ディプロマット誌東京特派員)
自衛隊頼みの災害対応には限界がある

被害が甚大で自然環境も厳しい現場では自衛隊の活動が不可欠だが、自衛隊頼みの災害対応には限界がある(石川県輪島市のグラウンドで医療用品の運搬を待つ隊員、1月6日) BUDDHIKA WEERASHINGHEーBLOOMBERG/GETTY IMAGES

<日本周辺の安全保障環境が悪化する一方で激甚災害が多発。自衛隊の過重な負担を減らすためにも専門組織が必要だ>

新年早々日本は一連の悲劇に見舞われた。元日に能登半島で起きた最大震度7の地震、そして翌日に羽田空港で起きた航空機の衝突事故だ。

海上保安庁の航空機は24時間で3度目の派遣として、地震の被災地に支援物資を届けるため、首都東京の混雑した国際空港から飛び立とうとしていた。まさにその時、着陸直後の日本航空のジェット旅客機と滑走路上で衝突したのである。

「天災は忘れた頃にやって来る」とは、物理学者で随筆家の寺田寅彦が述べた有名な警句だ。それから90年たった今、多くの日本人がこの言葉の意味を改めてかみしめていることだろう。

日本は自然災害にたたられた国だ。気象庁によると、環太平洋火山帯上に位置する日本列島には世界の活火山のおよそ1割に当たる110余りの活火山があるという。日本の最高峰・富士山もその1つだ。

さらに北海道から沖縄まで日本の都道府県には確認されたものだけで約2000の活断層があり、内閣府によれば、世界で起こるマグニチュード6以上の地震のおよそ2割が日本で起きているそうだ。加えて地球温暖化による気候変動で、超大型台風や線状降水帯による豪雨など「観測史上初」の災害も多発している。

ノウハウが蓄積されにくい

こうした要因が重なると、ごく単純な疑問が浮かぶ。アメリカの連邦緊急事態管理庁(FEMA〔フィーマ〕)のような災害対応の専門機関が日本にはなぜ存在しないのか。FEMAは災害のリスクに事前に備え、被害を最小限に抑えて、いざ災害が起きたときには迅速かつ継続的に対応する。

正月の能登半島の地震では、岸田文雄首相率いる現政権の対応を野党が痛烈に批判した。自衛隊の被災地への派遣が「逐次投入」になったため、救助活動が遅れたというのだ。

災害発生後72時間を経過すると生存率が大幅に下がると言われているが、地震翌日の1月2日に被災地に派遣された自衛隊員は約1000人。その後3日に1000人、4日に2600人が増派された。

主要野党・立憲民主党の泉健太代表は5日、「自衛隊が1000人、2000人、5000人という逐次投入になっているのは遅い」と苦言を呈した。これに対し岸田は会見で「半島という地理的な条件、多くの道路が寸断されるなど困難な状況」があったとして「単に人数だけ比較するのは適当ではない」と述べた。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ニデックは内部管理体制の改善必要と判断=山道JPX

ビジネス

UBS、第3四半期純利益は予想上回る74%増 ディ

ビジネス

アングル:NT倍率が最高水準に接近、日経平均の「A

ビジネス

NEC、通期業績予想を上方修正 国内IT好調で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」にSNS震撼、誰もが恐れる「その正体」とは?
  • 2
    コレがなければ「進次郎が首相」?...高市早苗を総理に押し上げた「2つの要因」、流れを変えたカーク「参政党演説」
  • 3
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大ショック...ネットでは「ラッキーでは?」の声
  • 4
    【クイズ】開館が近づく「大エジプト博物館」...総工…
  • 5
    「ランナーズハイ」から覚めたイスラエルが直面する…
  • 6
    楽器演奏が「脳の健康」を保つ...高齢期の記憶力維持…
  • 7
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    リチウムイオンバッテリー火災で国家クラウドが炎上─…
  • 10
    「何これ?...」家の天井から生えてきた「奇妙な塊」…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 10
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中