最新記事
半導体

半導体の公的補助は中国を利する...西側勢はどう動くべき?

CHIP SUBSIDIES BENEFIT CHINA

2024年1月16日(火)19時00分
ダニエル・グロー(欧州政策研究センター研究部長)
中国の半導体産業は周回遅れだが(江蘇省南通市の製造工場) FEATURE CHINAーFUTURE PUBLISHING/GETTY IMAGES

中国の半導体産業は周回遅れだが(江蘇省南通市の製造工場) FEATURE CHINAーFUTURE PUBLISHING/GETTY IMAGES

<西側勢が中国に追い越されまいと半導体産業振興に大枚をはたくことは不必要なばかりか、むしろ逆効果に>

新年の予想で1つだけ確実なことがあるとしたら、それは地政学的な競争が今年も続くということだ。EUにとってそれが意味するのはおおむね、特に重要な産品については輸入依存を減らすこと。アメリカは軍事的優位を維持するため、潜在的な敵対勢力、つまり中国の関連技術へのアクセスを阻止するだろう。この2つの試みが重なる重要分野が半導体産業だ。

今や経済大国は軒並み、「半導体戦争」での勝率を上げるため、巨額の予算を付けて国内の半導体産業を振興しようとしている。米商務省は2022年に制定された「CHIPSおよび科学法」に基づき、直接の資金援助(補助金など)、融資、融資保証の形で半導体の研究開発、製造、人材育成に500億ドルを支給する。

EUは昨年、「欧州半導体法」を採択。半導体技術と応用における「競争力と回復力」強化のため巨額の予算を投じる。

アジアでは日本と韓国が国内の半導体産業支援に大型予算を組んでいる。中国も負けじと、報道によれば総額1400億ドル超を半導体産業振興に投じる計画だという。

こうした振興策の全てに共通するのは、いわゆる「ファブ(Fab)」、つまり半導体製造工場の建設に最大の資金が充てられること。これは愚策と言わざるを得ない。ファブには特殊な設備と超クリーンな環境が必要で、新工場の設備投資はとてつもなく高くつく。だがファブができたら、それで終わりではない。

最大で最もクリーンなファブは今、アジアにあり、エッチング加工用などの最新鋭の機械は欧州で製造されている。そして回路パターンの設計に必要な最も優れたソフトはアメリカで生まれている。先端的なチップの完全な国産化を実現するには、これら全てを自前で調達できなければならない。

自前調達はすぐには不可能だ。半導体の小型化と高速化が進むなか、ごく少数の企業が高度に専門化されたノウハウを集積してきた。このノウハウはとんでもなく膨大で、特殊かつ複雑だ。そのため最先端の半導体製造に必要な技術は簡単には輸入できず、コピーもできない。後発企業がようやく膨大なノウハウをつかんだ頃には、先発企業ははるか先を走っていて、後発組はせいぜい1世代遅れの半導体を作れるのがオチだろう。

だからこそ中国は金に糸目を付けず半導体産業にテコ入れしてきたのに、今もこの分野で優位に立てていない。15年に中国政府は、25年までに国内の半導体需要の70%を国産品で賄えるようにすると宣言したが、現状では目標達成は夢のまた夢だ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米3月CPI前年比3.3%上昇、原油高でインフレ加

ワールド

ウクライナ高官、ロシアと和平合意に進展と表明 ブル

ワールド

訪朝の中国外相、金総書記と会談 国際・地域問題で連

ワールド

仏大統領、6月G7サミット後にトランプ氏を夕食会に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 2
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 3
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡散──深まる謎
  • 4
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 5
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 6
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 7
    目のやり場に困る...元アイスホッケー女性選手の「密…
  • 8
    戸建てシフトで激変する住宅市場
  • 9
    高学力の男女で見ても、日本の男女の年収格差は世界…
  • 10
    「仕事ができる人」になる、ただ1つの条件...「頑張…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 3
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 4
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 5
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 6
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 7
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 8
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 9
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 10
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中