最新記事
中東

「戦闘に勝って戦争に負ける」民間人の犠牲拡大に米政府が戦争遂行への3つの疑問をイスラエルに提起

HOW MANY IS TOO MANY?

2024年1月15日(月)11時35分
ウィリアム・アーキン(ジャーナリスト、元米陸軍情報分析官)

本誌の取材に応じたイスラエル軍の関係者によれば、2000ポンド弾の使用についてはイスラエル側が既にアメリカに譲歩している。

また状況の変化もあり、今はドローンや地上の兵士から得た情報を基に「動的」な標的を攻撃することに重点を移しているそうだ。

戦闘に勝って戦争に負ける

だが、これには不満の声もある。

米政府の干渉に激怒したあるイスラエル軍幹部は、「そんなに小型の爆弾を使わせたいなら、なぜ今まで、こんなに多くの大型爆弾を売り付けてきたのか」と述べた。

実際、アメリカは過去10年でイスラエルに3万1175発の爆弾を供与し、または供与の約束をしてきたが、その半分は2000ポンド弾だったという。

開戦から2カ月が経過した昨年12月初めの時点で、パレスチナ側は民間人の死者が少なくとも1万8000人に上り、その大半(70%)は女性と子供だと発表した。

ほかに瓦礫の下敷きになっているとみられる人が最大で6500人いるというから、合算すれば最大で2万4500人が死亡した可能性がある。

さて、これが正確な数字だとして、それはイスラエルが意図的に民間人を殺していることの証拠になるのだろうか。

そうだとして、この犠牲者数は「多すぎる」のだろうか。

例えばウクライナ戦争では、国連の「検証済み」の数字によれば、民間人の死者数は1万人前後だ。

これに比べるとガザ地区の民間人犠牲者はずっと多い。

ただしウクライナでは人口密度の高い大都市で戦闘が起きていないし、東部の激戦地からは大部分の市民が避難している。

06年にイスラエルとレバノンのイスラム過激派組織「ヒズボラ」の間で34日間にわたって展開された紛争では、レバノンの民間人1200人が死亡したと推定される。

人口密度の差を考慮に入れて換算すると、ガザ地区ならば約1万2000人(戦闘の継続日数も考慮に入れれば、さらに倍の2万4000人)に相当する可能性がある。

アメリカの軍と情報機関の関係者らは、ガザ地区の被害程度を考えると爆弾1発、あるいは標的1つ当たりの民間人の犠牲は極めて少ないという見方で一致している。

それでもガザ地区の人々の苦しみを目の当たりにすると、その見解が説得力を持つとは考えにくいだろう。

イスラエルは「これはハマスを壊滅させる作戦だとして戦闘の継続を正当化している。だが2カ月たっても、殺害できたのは戦前の推定戦闘員数の2割にすぎないと認めている」。

前出の米軍上級将校はそう言って、ため息をついた。

「これは『戦闘に勝って戦争に負ける』の典型的なケースだ。彼らがどう頑張っても、結果として民間人への(意図的な)攻撃になってしまう」

ニューズウィーク日本版 世界も「老害」戦争
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月25日号(11月18日発売)は「世界も『老害』戦争」特集。アメリカやヨーロッパでも若者が高齢者の「犠牲」に

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英中銀ピル氏、QEの国債保有「非常に低い水準」まで

ワールド

クラウドフレアで障害、数千人に影響 チャットGPT

ワールド

イスラエル首相、ガザからのハマス排除を呼びかけ 国

ビジネス

ユーロ圏銀行、資金調達の市場依存が危機時にリスク=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 10
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中