最新記事
スマートニュース・メディア価値観全国調査

日本の「分断」を追う10年プロジェクト始動──第1回調査で垣間見えた日米の差異

2024年1月31日(水)17時00分
山脇岳志(スマートニュース メディア研究所長)

日米比較の手法

さて、本調査は、日本国内の居住者を対象にしたものであり、調査の目的は、上記のように、日本の中の「分断」の実相を探ることである。とはいえ、筆者自身のもともとの着想が、米国における分断やメディア環境の変化から来ているため、まずは、可能な範囲で「日米の比較」を行ってみたい。

米国のデータで、日本と比較する上で主として使ったのは、前述のピュー・リサーチセンターのほか、ギャラップ社、ニューヨークタイムズなどの調査である。

ただ、そもそもSMPP調査が日米比較を目的としていないため、米国側の調査の設問や時期は少し違っている。類似の設問を取り出すことで大枠の比較はできるが、厳密な比較ではないことは、あらかじめご了承いただければ幸いである。なお、SMPP調査は2023年3月に実施したため、米側のデータは基本的に当時の最新データを基に比較を行った。

米国におけるイデオロギー軸(保守、リベラル)は、共和党支持者か民主党支持者かという区分で代用した。本来、イデオロギーと党派性は関連しつつも別個の概念だが、分断化が進む米国では両者の相関が高くなっており、共和党支持=保守層、民主党支持=リベラル層、と大まかには読み替えることができる。調査によっては、「Independent(無党派層)」という区分を置くものもあるが、ピュー・リサーチセンターは、無党派層などに対してさらに「共和党寄り」か「民主党寄り」かを聞き、多くをそれぞれの層に分類している。これは、明確な政党支持のない、いわゆる"Leaner"と呼ばれる人たちも、多くの場合明確な政党支持者と同じようにふるまうことが知られているためである。

日本のSMPP調査におけるイデオロギー軸は、調査対象者に、11段階のスケールで自己認識を問い、それをもとに分類している。(0〜4がリベラル、5が中間、6〜10が保守と分類)。本調査(郵送調査)での分布は、日本における保守は48%、中間が23%、リベラルが29%という結果となった。実は、日本では自分の立ち位置が「わからない」と答える人の割合も多いが、日米の比較をする上では「イデオロギー(の傾向)を自覚している人」の中での割合で比較するほうが良いと判断した。

日本の保守・リベラルのイデオロギー軸は、安全保障や憲法

過去の政治学研究からは、日本における「保守ーリベラル軸」は、安全保障や憲法問題に特徴的にあらわれ、米国のように、保守=「小さな政府」志向、リベラル=「大きな政府」志向という対立としてはあらわれないことが知られている。

今回のSMPP調査でも、従来の知見が裏付けられた。

「防衛力強化」の賛成率(「賛成」もしくは「どちらかといえば賛成」と回答した人の割合)では、保守層がリベラル層を上回り(図表4)、「憲法9条を変えるべきではない」の賛成率ではリベラル層が保守層を上回った(図表5)。それぞれ有意な差がみられた。

一方、税制についての設問で、「消費税増税もしくは10%維持に賛成」の人の割合でみると、保守層のほうがリベラル層に比べて、むしろ、やや割合が高かった(図表6)。米国では、リベラル層が増税(「大きな政府」)を容認しがちで、保守層は「小さな政府」志向で減税に熱心だが、日本ではその傾向が見られないことが分かる。

SMPP:山脇Ver2_4.jpg

SMPP:山脇ver2_5.jpg

SMPP:山脇 ver3_6.jpg

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米国との建設的な対話に全面的にコミット=ゼレンスキ

ワールド

米、ロシアが和平合意ならエネルギー部門への制裁緩和

ワールド

トランプ米政権、コロンビア大への助成金を中止 反ユ

ワールド

ミャンマー軍事政権、2025年12月―26年1月に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 2
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題に...「まさに庶民のマーサ・スチュアート!」
  • 3
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMARS攻撃で訓練中の兵士を「一掃」する衝撃映像を公開
  • 4
    同盟国にも牙を剥くトランプ大統領が日本には甘い4つ…
  • 5
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 6
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 7
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 8
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 9
    ラオスで熱気球が「着陸に失敗」して木に衝突...絶望…
  • 10
    【クイズ】ウランよりも安全...次世代原子炉に期待の…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 3
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 8
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 9
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 10
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 10
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中