日本の「分断」を追う10年プロジェクト始動──第1回調査で垣間見えた日米の差異
日米比較の手法
さて、本調査は、日本国内の居住者を対象にしたものであり、調査の目的は、上記のように、日本の中の「分断」の実相を探ることである。とはいえ、筆者自身のもともとの着想が、米国における分断やメディア環境の変化から来ているため、まずは、可能な範囲で「日米の比較」を行ってみたい。
米国のデータで、日本と比較する上で主として使ったのは、前述のピュー・リサーチセンターのほか、ギャラップ社、ニューヨークタイムズなどの調査である。
ただ、そもそもSMPP調査が日米比較を目的としていないため、米国側の調査の設問や時期は少し違っている。類似の設問を取り出すことで大枠の比較はできるが、厳密な比較ではないことは、あらかじめご了承いただければ幸いである。なお、SMPP調査は2023年3月に実施したため、米側のデータは基本的に当時の最新データを基に比較を行った。
米国におけるイデオロギー軸(保守、リベラル)は、共和党支持者か民主党支持者かという区分で代用した。本来、イデオロギーと党派性は関連しつつも別個の概念だが、分断化が進む米国では両者の相関が高くなっており、共和党支持=保守層、民主党支持=リベラル層、と大まかには読み替えることができる。調査によっては、「Independent(無党派層)」という区分を置くものもあるが、ピュー・リサーチセンターは、無党派層などに対してさらに「共和党寄り」か「民主党寄り」かを聞き、多くをそれぞれの層に分類している。これは、明確な政党支持のない、いわゆる"Leaner"と呼ばれる人たちも、多くの場合明確な政党支持者と同じようにふるまうことが知られているためである。
日本のSMPP調査におけるイデオロギー軸は、調査対象者に、11段階のスケールで自己認識を問い、それをもとに分類している。(0〜4がリベラル、5が中間、6〜10が保守と分類)。本調査(郵送調査)での分布は、日本における保守は48%、中間が23%、リベラルが29%という結果となった。実は、日本では自分の立ち位置が「わからない」と答える人の割合も多いが、日米の比較をする上では「イデオロギー(の傾向)を自覚している人」の中での割合で比較するほうが良いと判断した。
日本の保守・リベラルのイデオロギー軸は、安全保障や憲法
過去の政治学研究からは、日本における「保守ーリベラル軸」は、安全保障や憲法問題に特徴的にあらわれ、米国のように、保守=「小さな政府」志向、リベラル=「大きな政府」志向という対立としてはあらわれないことが知られている。
今回のSMPP調査でも、従来の知見が裏付けられた。
「防衛力強化」の賛成率(「賛成」もしくは「どちらかといえば賛成」と回答した人の割合)では、保守層がリベラル層を上回り(図表4)、「憲法9条を変えるべきではない」の賛成率ではリベラル層が保守層を上回った(図表5)。それぞれ有意な差がみられた。
一方、税制についての設問で、「消費税増税もしくは10%維持に賛成」の人の割合でみると、保守層のほうがリベラル層に比べて、むしろ、やや割合が高かった(図表6)。米国では、リベラル層が増税(「大きな政府」)を容認しがちで、保守層は「小さな政府」志向で減税に熱心だが、日本ではその傾向が見られないことが分かる。