「猫も人間が好き。ただ犬より愛情表現が分かりにくい」最新科学が解き明かす猫の本当の気持ち

THE MIND OF A CAT

2023年12月28日(木)17時26分
アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)

231114P18NW_NKO_05v2.jpg

古代エジプトでは猫は不思議な力を持つと考えられていた PAWEL LIBERA/GETTY IMAGES

人間の赤ん坊にそっくりの声

ではなぜ、猫はペットとしてこれほど好まれるようになったのか。

それは猫が、人間が生来的に持つ親としての愛情に訴えるからだと、米ワシントン大学(ミズーリ州セントルイス)の進化生物学者であるジョナサン・ロソス教授(生物学)は考えている。

その証拠として、ロソスはイギリスの研究チームが09年に行った実験結果を挙げる。

それによると、10匹の猫がさまざまな場面で発した鳴き声を録音して、50人の被験者に聞かせたところ、彼らは猫が食べ物を欲しがっているときの鳴き声と、それ以外のときの鳴き声を区別できたという。

詳しく調べてみると、食べ物が欲しいときの猫の鳴き声は、周波数が220~520ヘルツで、人間の赤ん坊の泣き声と同レベルだった。

「人間は遺伝子的に、赤ん坊の泣き声を聞くとそちらに注意を向けるようにプログラムされている」と、ロソスは解説する(関連記事)。

猫の顔は人間の赤ん坊のように、鼻が小さくて両目とも前方を向いている(これに対して、ほとんどの家畜の目は側面を向いている)。

また、大人の飼い猫は体重が平均4~4.5キロと、やはり生まれたばかりの人間の赤ん坊の体重3400グラムに近い。

もちろん、「私が猫を愛してやまないのは、人間の赤ん坊と似ているからじゃない!」と主張する人は多いだろう。

米ユニティ環境大学(メーン州)のクリスティン・ビターリ助教(動物衛生・行動学)は、猫はマイペースというイメージを抱かれがちだが、一般に思われている以上に人間の愛情を勝ち取るのがうまいと語る。

ビターリは長年、「猫は社会性が乏しく、しつけもできないし、頑固で、冷淡だ」という猫嫌いの人たちのコメントに驚いてきた。彼女自身の経験とは大きく異なるからだ。そしてこの10年ほど、猫は反社会的で犬ほど賢くないという誤解を正すための研究に励んできた。

ビターリはオハイオ州ケントに住んでいた7歳くらいの頃、ほぼ毎朝キッチンの床に座って、ゴールドベリーという名前のアメリカン・ショートヘアと一緒にフレンチトーストの朝食を取っていたという。

どこへ行くにもゴールドベリーは付いてきた。黒毛と灰色の三毛猫メイシーも、いつもビターリを探し、擦り寄り、なでてもらいたがった。

ビターリは14年、米オレゴン州立大学大学院で犬の認知研究で知られるモニーク・ユデル助教の研究室に参加した。

そして、猫が飼い主の傍らで過ごす時間を測定するというシンプルな方法によって、猫は犬よりも社会性が乏しいという誤解を打ち砕くことにした。

「犬と同じく個体差はあるが、猫も極めて社会的に振る舞うことが分かった」

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中