「猫も人間が好き。ただ犬より愛情表現が分かりにくい」最新科学が解き明かす猫の本当の気持ち
THE MIND OF A CAT
RICHARD NEWSTEAD/ISTOCK
<猫は社会性がなく冷淡なイメージだが、本当は飼い主のことをどう思っているのか?犬との比較研究や実験による新たな発見から、猫の真実と上手な付き合い方が見えてきた>
動物行動学者のペーテル・ポングラッツは4匹の猫──クッキー、スシ、クランブルズにスティンキー──と暮らしているだけあって、猫のミステリアスな心を解き明かすための研究テーマには事欠かない。
ペットとして世界で人気第2位の猫は、人間に対してどんな感情を抱いているのか。飼い主のことをどう思っているのか。
とはいえ謎の解明を手伝ってくれる忍耐強く意欲的な大学院生は、そういない。
人間にいい子だと褒められ、ご褒美の骨をもらうためなら何だってする犬という研究対象がいるとなれば、なおさらだ。
ハンガリーのウトブス・ロラーンド大学で教鞭を執るポングラッツが研究の難しさを思い知ったのは、2005年のことだった。
猫を研究室に連れてきてもらったところ、たちまち空調設備のダクトから壁の後ろに潜り込んでしまったのだ。
飼い主の必死の呼びかけもむなしく猫は姿を表さず、研究チームは夕方までかかって壁を解体した。猫の研究に挑戦したがる大学院生を再び見つけるのに、ポングラッツは10年余りを要した。
「私はとにかく猫に夢中で、猫の研究ができると聞けば見境なく飛び付く」と、ポングラッツは言う。
「アイデアはいくらでもあるが、一緒に猫を研究してくれる学生はなかなかいない」
数年前、彼はためらいつつも「猫の認知研究」に復帰した。研究室の壁の裏に「被験者」が消える事態を防ぐため、猫のいる場所にこちらから出向くことにした。
まずは飼い主にアンケートを実施。
「あなたの猫はほかの猫の鳴き声をまねしますか?」「あなたの猫には共感能力やコミュニケーション能力があると思いますか?」「どの程度の理解力があると思いますか?」といった質問をした。
アンケートの集計が終わったところで、ポングラッツは学生たちを猫が住む家に派遣し、実際の行動を観察させた。
犬より愛情表現は複雑だが
こうして18年に発表した論文は、人間と良好な関係を結ぶ猫の能力に新たな光を当てた。
研究結果によれば猫は驚くほど巧みに人間の視線を追い、人間の意図を推し量る。
室内飼いの猫と外飼いの猫では生活様式の違いから、認知に大きな違いが出ることも明らかになった。室内飼いの猫はボールなどの人工物を使った遊びに、外飼いの猫よりはるかに強い興味を示した。
ポングラッツの論文は、この5年間に相次いで発表された猫の認知をめぐる研究結果の1例だ。
猫は尊大で気まぐれだから研究対象としては手が焼ける。それでもここへきて、猫の研究は盛り上がりを見せている。