「ウクライナは既に勝利している」...ティモシェンコ元ウクライナ首相がそう語る理由とは?
ISSUES 2024: UKRAINE WAR
V・E・ラシュカリョフ半導体物理研究所のX線結晶学者バシル・クラドコは、侵攻から間もなく首都キーウ近郊のイルピンで射殺された。
ウクライナ国立バレエのトップダンサーだったオレクサンドル・シャポバルは、2022年9月に東部ドネツク州で戦死した。
ロシアの戦争犯罪の記録に尽力した作家ビクトリア・アメリーナは、23年7月にミサイル攻撃を受け亡くなった。彼らは祖国が存在する権利を守って命を落とした国民のほんの一部にすぎない。
「民主主義の武器庫」を強化
団結は勇気と戦意ばかりか、創意工夫の才も解き放った。開戦当時、ロシアの軍事費はウクライナの10倍近かった。われわれが互角に戦う上で、頼みの綱は国民の創造性だった。そしてその成果に、ロシアだけでなくNATOの友人たちも驚愕した。
主に官民のパートナーシップを通して培われたウクライナの革新性は戦争の性質を変えただけでなく、費用対効果も抜群に高い。
例えば商用ドローンを転用することで、全長約965キロの前線を効果的かつ比較的安価に偵察できるようになった。グーグルのエリック・シュミット元CEOは「ドローンの大軍」が「戦闘を劇的に変える」と予想した。
さらに参謀本部、国家特別通信情報保護局、デジタル転換省と国防省が国際社会にドローン購入の支援を求めるキャンペーン「アーミー・オブ・ドローンズ」を実施。毎月数千機が破壊されるドローンを速やかに補充できるのは、このおかげだ。
商用技術の転用は、黒海でもロシア軍に損害を与えた。ウクライナの対艦ミサイルに艦船を破壊された後、ロシアは海岸から離れた海域で活動するようになった。するとウクライナ軍はジェットスキーに爆薬を積んで水上ドローンに改造し、その船隊で艦艇に戦いを挑んだ。
ウクライナは目下、政府の軍事技術プロジェクトが開発した殺傷力のより高い無人水中車両「トロカTLK150」を配備しようとしている。
第2次大戦中に「民主主義の武器庫」をもって任じたのはアメリカだが、現在国民の創意工夫と機転を活用し、民主主義を守る武器庫を率先して強化しているのはウクライナだ。
戦略も進化した。旧態依然のロシア軍指導部は中央集権的なトップダウンの意思決定を行い、捨て駒として前線に送られる殺人犯やレイプ犯だけでなく一般の兵士も軽んじている。
対照的にウクライナでは司令官と市民兵にかなりの自由裁量が与えられ、上層部の決断に影響を及ぼすことができる。またプログラマーは自身の技能と最新のAI(人工知能)を駆使し、戦場の兵士が状況を分析し対処するのをリアルタイムで支援する。