最新記事
ウクライナ情勢

「ウクライナは既に勝利している」...ティモシェンコ元ウクライナ首相がそう語る理由とは?

ISSUES 2024: UKRAINE WAR

2023年12月20日(水)14時15分
ユリア・ティモシェンコ(元ウクライナ首相)

V・E・ラシュカリョフ半導体物理研究所のX線結晶学者バシル・クラドコは、侵攻から間もなく首都キーウ近郊のイルピンで射殺された。

ウクライナ国立バレエのトップダンサーだったオレクサンドル・シャポバルは、2022年9月に東部ドネツク州で戦死した。

ロシアの戦争犯罪の記録に尽力した作家ビクトリア・アメリーナは、23年7月にミサイル攻撃を受け亡くなった。彼らは祖国が存在する権利を守って命を落とした国民のほんの一部にすぎない。

「民主主義の武器庫」を強化

団結は勇気と戦意ばかりか、創意工夫の才も解き放った。開戦当時、ロシアの軍事費はウクライナの10倍近かった。われわれが互角に戦う上で、頼みの綱は国民の創造性だった。そしてその成果に、ロシアだけでなくNATOの友人たちも驚愕した。

主に官民のパートナーシップを通して培われたウクライナの革新性は戦争の性質を変えただけでなく、費用対効果も抜群に高い。

例えば商用ドローンを転用することで、全長約965キロの前線を効果的かつ比較的安価に偵察できるようになった。グーグルのエリック・シュミット元CEOは「ドローンの大軍」が「戦闘を劇的に変える」と予想した。

さらに参謀本部、国家特別通信情報保護局、デジタル転換省と国防省が国際社会にドローン購入の支援を求めるキャンペーン「アーミー・オブ・ドローンズ」を実施。毎月数千機が破壊されるドローンを速やかに補充できるのは、このおかげだ。

商用技術の転用は、黒海でもロシア軍に損害を与えた。ウクライナの対艦ミサイルに艦船を破壊された後、ロシアは海岸から離れた海域で活動するようになった。するとウクライナ軍はジェットスキーに爆薬を積んで水上ドローンに改造し、その船隊で艦艇に戦いを挑んだ。

ウクライナは目下、政府の軍事技術プロジェクトが開発した殺傷力のより高い無人水中車両「トロカTLK150」を配備しようとしている。

第2次大戦中に「民主主義の武器庫」をもって任じたのはアメリカだが、現在国民の創意工夫と機転を活用し、民主主義を守る武器庫を率先して強化しているのはウクライナだ。

戦略も進化した。旧態依然のロシア軍指導部は中央集権的なトップダウンの意思決定を行い、捨て駒として前線に送られる殺人犯やレイプ犯だけでなく一般の兵士も軽んじている。

対照的にウクライナでは司令官と市民兵にかなりの自由裁量が与えられ、上層部の決断に影響を及ぼすことができる。またプログラマーは自身の技能と最新のAI(人工知能)を駆使し、戦場の兵士が状況を分析し対処するのをリアルタイムで支援する。

経営
「体が資本」を企業文化に──100年企業・尾崎建設が挑むウェルビーイング経営
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国万科、債権者が社債償還延期を拒否 デフォルトリ

ワールド

トランプ氏、経済政策が中間選挙勝利につながるか確信

ビジネス

雇用統計やCPIに注目、年末控えボラティリティー上

ワールド

米ブラウン大学で銃撃、2人死亡・9人負傷 容疑者逃
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 5
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中