最新記事
日本社会

若年女性流出の背景に見える、地域のジェンダー意識

2023年12月20日(水)11時45分
舞田敏彦(教育社会学者)
街を去る女性

若年女性の流出は単純に都市化や仕事がないといった要因だけでははかれない mentatdgt/Shutterstock

<賃金の性差の大きさや「嫁」としての振る舞いを求められることなど、地域のジェンダー意識が流出に繋がっている可能性がある>

地方から都市への人口流出が続いている。その度合いが最も大きいのは、就職や結婚といったイベントがある20代だ。

あまり知られていないが,20代の流出度は男性より女性で大きい。2022年の20代の転出超過率を計算してみると、ほとんどの県で「男性<女性」となっている。地域を持続可能にするには若者、とりわけ若年女性の流出をいかに食い止めるかが重要となる。

転出超過率とは、年間の転出超過数を年始の人口で割った数値で、人口の流出度を測る指標として用いられる。鹿児島県だと、2022年の20代女性の県外転出者は5468人、県内への転入者は4347人。前者から後者を引いた1121人が転出超過数となる。これを同年1月1日の20代女性人口(6万4347人)で割って、転出超過率は1.74%と算出される。人口移動によって、20代の女性が1年間で1.74%減ったことを意味する。

この数値を都道府県別に計算すれば、各県の若年女性の流出度を可視化できる。<表1>は、値が高い順に47都道府県を並べたランキングだ。

data231220-chart01.png


最も高い福井の4.05%から、最も低い東京のマイナス4.53%までの開きがある。値がマイナスなのは転出より転入が多いからで、人口を吸い上げている都市部、とりわけ東京は毎年こうなる。

転出超過率が高い県を見ると、地方の県が多い。しかし同じ地方県、ないしは隣接する県でも値がかなり異なるケースもあり、都市化のレベルで語れる単純な構造ではない。地域にどれほど仕事があるかという、労働市場の指標(有効求人倍率)との相関関係もない。

細かい要因はさておき、近年になって注目されるのは、若年女性の流出を「ジェンダー」の問題と重ねる動きが出ていることだ。12月13日の日経新聞WEB記事「ジェンダー平等に動く地方―若い女性の流出に危機感抱く」では、ジェンダーギャップ解消プログラムを策定している兵庫県豊岡市や、ジェンダーギャップ解消セミナーを開いている富山県南砺市の事例が紹介されている。

賃金の性差が大きいことや、「嫁としての振る舞い」を求められることに違和感を抱く女性は多いだろう。2020年の『国勢調査』をもとに、旧来型の3世代世帯で暮らす人が25~54歳女性の何%かを県別に計算し、<表1>の転出超過率との相関係数を出すと+0.5873となる。ジェンダーとの関連を疑ってもいい。

社会的価値創造
「子どもの体験格差」解消を目指して──SMBCグループが推進する、従来の金融ビジネスに留まらない取り組み「シャカカチ」とは?
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英小売売上高、10月は前月比-0.7% 予算案発表

ビジネス

アングル:日本株は次の「起爆剤」8兆円の行方に関心

ビジネス

三菱UFJ銀、貸金庫担当の元行員が十数億円の顧客資

ワールド

中国、日本などをビザ免除対象に追加 11月30日か
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中