最新記事
米外交

最期まで真のヨーロッパ人だった「米外交の重鎮」...「複雑なリアリスト」キッシンジャーが逝く

THE MASTER OF REALPOLITIK

2023年12月7日(木)14時50分
マイケル・ハーシュ(フォーリン・ポリシー誌コラムニスト)

231212P46_KSJ_02.jpg

1971年7月に北京の迎賓館で周恩来首相と会談し、米中国交正常化につなげた WHITE HOUSEーCNP/GETTY IMAGES

キッシンジャーは1923年5月27日、ドイツ南部のフュルトで生まれた。ワイマール共和国の迷走と崩壊を経てナチス政権が成立すると、その迫害で多くの親族を失った。

アメリカに亡命してからは新天地になじもうとしたが、強いバイエルンなまりが抜けなかったのと同じく、理念よりも現実を重視するヨーロッパ流の政治、いわゆる「レアルポリティーク」を信奉し続けた。

外交に関しては19世紀ドイツ帝国の「鉄血宰相」ことオットー・フォン・ビスマルクに心服し、後に自ら記しているように、「外交政策は感情ではなく、強さの評価に基づいたものでなければならない」というビスマルクの信念に同調していた。

伝記作家のアイザックソンは、これが「キッシンジャーの指導原理の1つ」だったと指摘している。

やがて米ハーバード大学の教授となったキッシンジャーは、聡明であると同時に野心的な人物として知られ、すぐに政界トップの信任を得た。

最初は民主党のジョン・F・ケネディ、次は共和党のネルソン・ロックフェラー、そしてリチャード・ニクソンである。ニクソンは毀誉褒貶の激しい人物だったが、その点はキッシンジャーも同様だった。負けん気が強く、ニクソン政権ではライバルを次々と蹴落として出世した。

抜群の説得力とユーモアと

しかし学者として、そして抜群の説得力の持ち主としての功績は後世に残るものがある。博士論文では、19世紀前半のオーストリア帝国宰相メッテルニヒらの現実主義が成功した理由を詳細に論じた。

また1957年の著書『核兵器と外交政策』は意外なベストセラーとなったが、キッシンジャーは同書で限定的核戦争を支持していた(この主張は後に取り下げている)。

キッシンジャーはベトナム戦争も支持した。ただし研究者のバリー・グーエンによると、現地への訪問を経た1965年の時点で、既に無益な戦争と見越していたが、それでもアメリカの影響力が落ちないように腐心した。そしてソ連とのデタントを演出し、保守派の怒りを買ってでも核兵器削減交渉に手を付けた。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

仏財務相、予算協議は「正しい方向」 不信任案可決の

ビジネス

ユーロ圏インフレ率、25年は2.1%と予想=ECB

ビジネス

アングル:米で広がる駆け込み輸入、「トランプ関税」

ビジネス

ドイツ失業率、1月6.2%に上昇 景気低迷が雇用に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    「やっぱりかわいい」10年ぶり復帰のキャメロン・デ…
  • 8
    フジテレビ局員の「公益通報」だったのか...スポーツ…
  • 9
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 10
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中