最新記事
アメリカ

現役兵39%減「新兵不足の危機」アメリカ軍が好景気とZ世代の影響で直面する新たな軍事課題

RECRUITMENT BLUES

2023年12月7日(木)17時29分
アレックス・フィリップス(本誌アメリカ政治担当)

231212P50_BGR_03v2.jpg

入隊申込所で手続きをする青年 CHRIS HONDROS/GETTY IMAGES

今の若い世代は軍人と交流する機会も少ないと、軍の採用担当者らはみている。

ユースティスによれば彼の父は韓国で従軍し、その後10人の子供のうち7人が軍に入るのを見守った。そういう家族は現在では非常に珍しいと、ユースティスは言う。

リクルートミリタリー社の上級副社長も務めるヘンダーソンによれば、軍の採用担当者の標準的な手段だった対面でのやりとりがテクノロジーの発展で減っている。

「じかに話をする機会は以前ほど多くない」

10月のアメリカの失業率は3.9%と落ち着いており、10月だけで約15万人の雇用が増えた。

だが依然としてインフレが多くの消費者の懸念材料となるなか、若者が高収入の仕事を求めるのは当然の流れだ。年俸わずか2万ドル強の新兵は、どうしても魅力が乏しく見える。

「失業率と新兵採用の難しさの間に強い結び付きがあるのは間違いない」と、シュガートは認める。

「一般に、不況で失業率が高いときは、必要な数の新兵を難なく確保できる。だが、景気が絶好調で人手不足のときは、仕事の選択肢がたくさんあるため、新兵の確保は難しくなる」

だが、軍での仕事には給料以外の「特典」がたくさんあることは十分知られていないと、新兵採用担当者らは語る。

そして、若い世代を引き寄せるためには、こうした特典をもっとアピールするべきだという。

「雇用情勢が新兵確保を難しくしているとは必ずしも思わない。確かにZ世代にとって経済的な安定は重大な関心事だが、軍人になれば収入だけでなく知識や医療保障を得られる。一定期間勤め上げれば、退職金や住宅ローンの優遇措置も受けられる。自分の成長や退役後のキャリアにプラスとなる貴重な経験も得られる。そうした情報をきちんと伝えれば、むしろ経済情勢は(新兵確保に)プラスに働くと思う」と、ユースティスは語る。

ヘンダーソンも、10月の全米の失業率は3.9%だったが、退役軍人の場合は2.9%だったと指摘する。

そして軍務を経験すると、「周囲が『あいつには無理だ』と思っていたレベルまで自分を追い込む能力」を得られると語る。

それは退役後の就職活動でもプラスに働くはずだ。

その一方で、軍が確保したい人材は基本的に健康だから、無料で医療が得られることはさほど大きなアピールポイントにならないと、元海軍攻撃型潜水艦司令官のシュガートは指摘する。

大学の学費が免除になるという大きな特典も、ジョー・バイデン大統領が進める学費ローン帳消し政策によって魅力が薄れるかもしれない。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

欧州評議会、ウクライナ損害賠償へ新組織 創設案に3

ビジネス

米雇用、11月予想上回る+6.4万人 失業率は4年

ワールド

ハセット氏、FRBの独立性強調 「大統領に近い」批

ビジネス

米企業在庫9月は0.2%増、予想を小幅上回る
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 8
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「日本中が人手不足」のウソ...産業界が人口減少を乗…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中