「歩く肺炎」の恐怖、耐性菌大国に忍び寄る子供たちのマイコプラズマ肺炎危機
Another Deadly Outbreak?
中国政府は、肺炎の症状を見せる子供たちの親に、アジスロマイシン(最も一般的なマクロライド系抗菌薬で、マイコプラズマ肺炎の第1選択薬だ)の使用を控えるよう呼びかけるだけで、変異株については言及していない(中国では抗菌薬が医師による処方箋なしで市販されている)。
さらに懸念されるのは、今回のマイコプラズマ肺炎の流行を大きなリスクと見なさないというWHOの判断が、抗菌薬で容易に治療できるという理由に基づくことだ。
アジスロマイシン耐性のあるマイコプラズマ肺炎は世界的に報告されており、中国における耐性率は特に高い。
中国疾病対策予防センターによると、09〜12年の北京におけるマイコプラズマ肺炎のマクロライド耐性率は90~98.4%にもなる。つまり8歳未満の子供がマイコプラズマ肺炎に感染すると、効き目のある治療法はないことになる。
WHOは中国に圧力を
今回の肺炎流行が新しい病原体によるものではないかという不安は、既に縮小しつつある。それにマイコプラズマ肺炎が死に至ることはほとんどない。だが、抗菌薬が効かない薬剤耐性(AMR)が死をもたらすことはある。
抗菌薬が効かないために命を落とす人は、年間130万人にも上る。新型コロナによる死者を上回る数字だ。この脅威と無縁の国はない。そして抗菌薬が市販されている中国は、薬剤耐性の問題で世界をリードしている。
感染症専門医なら誰しもWHOに聞きたいことだろう。
今回流行しているマイコプラズマ肺炎のマクロライド耐性率を中国当局に質問したのか。そしてその回答をリスク評価に含めたのか。成人のマイコプラズマ肺炎治療に使われる抗菌薬ドキシサイクリンやキノロンへの耐性はどうか──。
中国の沈黙は驚きではない。
1人当たりの抗菌薬消費量が(抗菌薬が大好きな)アメリカの10倍であり、抗菌薬の適正使用に向けた支援もあくまでも表面的にとどまっている。
2カ月後には数億人が大移動する春節(旧正月)がやって来るが、WHOが中国当局に移動制限を勧告する気配はない。
WHOは、中国政府の身勝手な説明をうのみにするのではなく、病原菌の変異株が広まらないよう中国に公然と圧力をかけるべきだ。
消毒剤と抗菌薬が発明されるまで、医療の世界で手術は最後の手段だった。
抗菌薬がなければ、私たちは過去150年にわたる臨床と外科における医療の進歩を失うことになる。だが10年後には、有効な抗菌薬はほとんどなくなる恐れがある。
多くが予想するような新型ウイルスではないかもしれないが、新たなパンデミックはもう到来しつつあるのだ。
2024年11月26日号(11月19日発売)は「超解説 トランプ2.0」特集。電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること。[PLUS]驚きの閣僚リスト/分野別米投資ガイド
※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら