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中東情勢

中東危機:シリアの沈黙、隠された動機と戦略

2023年10月20日(金)18時25分
青山弘之(東京外国語大学教授)

ハマースの方針転換は、そのほかの在シリア・パレスチナ諸派――パレスチナ人民解放戦線総司令部は(PFLP-GC)、ファタハ・インティファーダ、パレスチナ人民闘争戦線(PPSF)、サーイカ、パレスチナ解放軍(PLOの軍事部門)、イスラーム聖戦機構――がシリア政府を支援し、反体制派との武装闘争に身を投じて行ったのとは対象的だった。また、シリア国内のパレスチナ人のなかには、ハンダラート・キャンプのパレスチナ人が中心となってクドス旅団を名乗る民兵組織を結成・参加する者も多く現れたが、ハマースの決断はこうした動きとは真逆だった。

ハマースの幹部の1人だったサラーフ・アブー・サラーフは2012年半ば、民兵組織アクナーフ・バイト・マクディス大隊を結成、シリア軍に半旗を翻し、ヌスラ戦線が主導する反体制派と共闘し、ヤルムーク・キャンプを支配下に置いたのである。

しかし、こうした姿勢は長くは続かなかった。2015年半ば、イスラーム国が首都ダマスカス南部一帯などで勢力を伸長すると、アクナーフ・バイト・マクディス大隊はシリア軍と共闘するようになった。その結果、2018年4月にはヌスラ戦線を主体とする反体制派、イスラーム国を首都ダマスカス南部から完全に放逐、同地はシリア政府の支配下に復帰した。

ハマースとの和解の兆し

2020年3月のイドリブ県でのシリア軍、ロシア軍とトルコ軍、ヌスラ戦線が主導する反体制派との大規模交戦をもって、シリアでの主要な戦闘が集結し、シリア政府の存続が既定路線となるなか、ハマースとシリア政府の間でも徐々に和解の兆しが見えるようになった。

ロイター通信が2022年6月21日によると、ハマースは高級レベルでの会合を水面下で重ねた結果、シリア政府との関係を修復することを決定したのである。また、同年10月23日には、ハーズィム・カースィム報道官が声明で、シリア政府との関係を発展させていくと表明した。この動きは、抵抗枢軸を構成するヒズブッラーのハサン・ナスルッラー書記長2022年7月25日、「ハマースとシリア政府の関係正常化に私は個人的に関心がある」と歓迎された。

和解に向けた動きが始動するなか、ハマースはシリア政府に対して善意を示すようになった。2022年9月15日、ハマースはイスラエルによるシリアへの度重なる爆撃・ミサイル攻撃、とりわけダマスカス国際空港などの民生施設への攻撃を非難する声明を出した。2023年2月6日にトルコ・シリア大地震が発生すると、ハマースのイスマーイール・ハニーヤ政治局長はバッシャール・アサド大統領に電報を送り、犠牲者に弔意を示した。

2023年5月19日、サウジアラビアのジェッダで開催された第32回アラブ連盟首脳会議にアサド大統領が出席、2011年以来12年にわたって続いていたシリアの加盟資格停止処分が解除された。これに先立って5月7日にエジプトの首都カイロで開催されたアラブ連盟緊急外務大臣会合において、シリアの連盟復帰が決議された際、ハマースのカースィム報道官は歓迎すると示した。2023年8月14日にはムーサー・アブー・マルズーク国際関係局長がダマスカスに事務所を再開し、常駐代表を派遣する予定と述べた。

しかし、シリア政府は、ハマースのアプローチに応えようとはしなかった。アサド大統領は2023年8月9日のスカイ・ニュース・アラビア語放送とのインタビューで次のように述べ、関係修復の意思はないと断じたのだ。


ハマース指導部のなかには、シリアが(「アラブの春」波及当初)彼らに支援を求めてきたと言う者もいる。しかし、彼らがどのように我々を支援し、シリアという国家を防衛するというのだ。彼らは軍隊を持たず、シリアに数十人しかいないのに。こうした言葉は正しくないのだ。我々がたびたび発表してきた姿勢は不誠実だとされた。だが、それは我々がハマースを支援していたからではなく、彼らが当時、自分たちをレジスタンスだと主張していたからだ...。どうすれば、レジスタンスを自認する者が...、米国やトルコによる占領、イスラエルの侵略を支援できるというのか。

ハマースのこうした姿勢は裏切りと偽善が入り混じったものだ。一方、今日の(ハマースとの)関係は一般原則の範囲内での関係だ。我々は自ら権利を取り戻すため、イスラエルに敵対するすべてのパレスチナの当事者を支持する、これが一般原則だ。

(ハマースとの関係を回復させる可能性は)今のところない。彼らはシリア国内に事務所を持っていない。そうしたことを話すのは時期尚早だ。我々には優先順位があり、シリア国内での戦いが今のところ我々にとっての優先事項だ。

シリア政府の消極的な姿勢は、ハマースがシリア北部を占領するトルコ、そしてトルコと親密な関係にあるカタールから良好な関係を築き、支援を教授していることが背景だった。あるいは、占領に対する闘争における優先順位は、トルコ、有志連合によるシリア北部と南東部への占領への対応にあり、それに対してハマースの積極的に支持の姿勢を示すことを求めているとも解釈できよう。

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