最新記事
脅迫

メドベージェフが発した核より現実的で恐しい戦線拡大の脅し

Russia Threatens Direct Attacks on US Allies Over Soldiers, Taurus Missiles

2023年10月2日(月)18時14分
エリー・クック

メドベージェフ(左から2番目)の「脅迫」はこれが初めてではないが(2022年5月9日、戦勝記念日の軍事パレードで)

<もしドイツがタウルス・ミサイルをウクライナに供与すれば、ロシアはドイツ国内のタウルス製造工場を攻撃対象にする、とメドベージェフは脅した。ウクライナ国内のNATO軍関係者を標的にする、とも。いずれもNATO全体に戦争を拡大させかねない脅しだ。>

【動画】「まさに壊滅的!」米ミサイルATACMSから飛散したクラスター弾による爆撃の瞬間

ドミトリー・メドベージェフ前ロシア大統領が、イギリスとドイツの今後の軍事支援を強く牽制した。もしイギリス軍がウクライナ兵の訓練をウクライナ国内で行うという計画を実行に移したら、そのイギリス人は攻撃対象になる。またもしドイツがウクライナに長距離巡航ミサイル「タウルス」を提供するようなことがあれば、ドイツ国内のタウルス製造工場もロシア軍の正当な攻撃目標になる、というのだ。

イギリスに対する脅しの発端となったのは、軍事用ハードウェアの「訓練と生産」をウクライナ領内に移す方向で協議している、というイギリスのグラント・シャップス国防相の発言だった。

英紙サンデー・テレグラフによれば、シャップスは「私は今日、訓練をもっとウクライナに近いところ、いずれはウクライナ領内で実施することについて話し合っていた」と語った。

だがリシ・スナク英首相は「ゆくゆくはそういうこともある、という話であって、今すぐに実施するわけではない」と、国防相の発言を一部、訂正した。

「国防相が言ったのは、ウクライナ国内で訓練を行うことは将来的には可能かもしれないということだ」とスナクは10月1日、保守党会合の前に語った。「イギリス軍の兵士が今、戦地に派遣されることはない」

「われわれは、ウクライナ人の訓練をイギリス国内で行っている」と、スナクは説明した。

メドベージェフは1日、テレグラムに投稿し、イギリス軍兵士がこのような任務に就いた場合、ロシア軍の「合法的な標的」になると述べた。

兵員は「容赦なく破壊されるだろう」と、現在ロシアの安全保障理事会の副議長を務めるメドベージェフは書いている。

NATO全体に拡大も

米シンクタンクのランド研究所は9月末に発表した報告書で、ロシアのウクライナへの攻撃によってウクライナ国内にいるNATO関係者が何かで死亡するなどの事件が起きれば、ウクライナでの戦争がエスカレートする可能性があることを示唆した。

メドベージェフは、ドイツがウクライナへのタウルス・ミサイル供与を決めた場合、ロシアは「これらのミサイルが製造されているドイツの工場を、国際法を完全に順守しながら」攻撃することになる、とも警告している。

NATOはこれまで、ロシアの侵攻に対抗してウクライナを支援しているだけであって、NATOとロシアは戦争状態にはないと主張してきた。だがロシアの意図的な攻撃によって戦争がNATO加盟国に波及すれば、加盟国に対する攻撃はNATO全体の攻撃とする北太平洋条約第5条が発動されて戦争がさらに拡大する恐れがある。

 

キャリア
企業も働き手も幸せに...「期待以上のマッチング」を実現し続ける転職エージェントがしていること
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米メーシーズ、第4四半期利益が予想超え 関税影響で

ワールド

ブラジル副大統領、米商務長官と「前向きな会談」 関

ワールド

トランプ氏「日本に米国防衛する必要ない」、日米安保

ワールド

トランプ氏、1カ月半内にサウジ訪問か 1兆ドルの対
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 5
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 6
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 10
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中