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世界一幸福な国はSDGsでも達成度1位 フィンランド、気候変動対策へ行政の取り組みは?

2023年10月5日(木)12時00分
岩澤里美(スイス在住ジャーナリスト)

吸収量とは、フィンランドの国土の70%以上を占める森林(18万以上ある湖は除く)、そして農場などがCO2を吸収する量だ。土地を利用したCO2吸収量の伸び悩みは、森林の成長が予測通りに進まなかったり、伐採が増加したりといったことが要因とのこと。同国では、2022年6月に新・気候法が施行され、CO2吸収を増加できるよう積極的に土地を活用することも定められた。森林の成長を促しつつ損傷を抑える研究やプロジェクトは、すでに始まっているという。加えて、世界で研究が進んでいる、大気中のCO2を直接回収する技術のダイレクト・エア・キャプチャー(DAC)に新たに力を注いでいく意向だ。

セーデルロフ氏は、世界初のカーボンニュートラル2035年実現に向け、国内の産業界が協力的であることも強調していた。

個人のCO2削減のヒントをデジタルで可視化「Sitraライフスタイルテスト」

Sitraライフスタイルテストの結果画面

画期的なカーボンフットプリント計算アプリ「Sitraライフスタイルテスト」は住居、移動、食事、消費の4分野にまたがる。筆者が試した結果、飛行機使用のインパクトがとても大きいとわかった。

気候変動を抑えるには、企業活動の改善とともに、個人が生活のなかでアクションを取っていくことも大切だ。しかし、生活スタイルを大幅に変えたくない人もいる。省エネ、マイバッグ持参、肉食の低減などを実践している人であっても、更なる改善点についてよくわからない場合も多いはず。

フィンランド政府イノベーション基金(Sitra、1967年設立)は、2021年秋、市民に「行動変化の気づきを与え、自己分析してもらう方法」の開発に着手した。そして、自分の生活スタイルについて26の質問に答えることで、現在のカーボンフットプリント(CO2総排出量)を算出してくれるアプリ「Sitraライフスタイルテスト」を作成した。テストは無料で、何度でも、匿名で受けられる(年齢や収入などを匿名で提供することも可能)。回答内容はデータバンクに送られ、社会全体の持続可能性の進展に役立てられるという。


テストは選択式。分野は住居、移動、食事、消費の4つに渡る。カッコ内が質問内容。
① 住居(住まいの広さ、暖房の方法、シャワーや入浴の回数)
② 移動(車を所有している場合の使用状況、公共交通機関の使用状況)
③ 食事(食志向、1週間の食品廃棄量)
④ 消費(買い物習慣全般、中古の衣類や家電製品の購入状況)

このテストは自分のカーボンフットプリントをひと目で把握できるうえ、「飛行機を使わなければ、988kgCO2e(4.4%)を削減できます」など、CO2排出量削減のヒントをリストにして教えてくれる点も優れている。筆者は、飛行機使用をやめることは無理でも、リストのほかの削減項目にトライしようという気持ちになった。こうして項目を少しずつクリアしてくことが、より環境に優しい生活につながっていく。

実際に成果は出ている。人口約550万人のフィンランドで、このテストは約140万回使われ、使用者の80%が自分の削減項目を実行に移せると感じたそうだ。実際、50%が行動し、その人たちのカーボンフットプリントは、フィンランド人平均と比べて35%も下がった。

SitraはこのテストをEU諸国をはじめ世界に広げる計画だ。日本でも類似のアプリは少しずつ開発が進められているが、Sitra担当者は「ぜひ、このテストを日本の生活事情に合わせて普及させてほしい」と語っていた(無料で提供可能とのこと)。

フィンランド政府イノベーション基金(Sitra)の担当者

フィンランド政府イノベーション基金(Sitra)の担当者

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