最新記事
注目ニュースを動画で解説

ロシア高2新教科書、ウクライナに関する嘘満載で不都合な歴史は抹消...編者は歴史家でなく【アニメで解説】

2023年9月21日(木)18時05分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
陰謀論満載のロシアの新しい教科書

Newsweek Japan-YouTube

<新学期を迎えたロシアの高校生たちに配られた新たな歴史の教科書。陰謀論満載のその内容を取り上げたアニメーション動画をダイジェスト的に紹介する>

過去を書き換え、史実を隠し、愛国心を刷り込む──ウクライナ侵攻を正当化し、残虐の歴史を葬った400ページ超にも及ぶロシアの新たな教科書。その驚愕の内容とは?

本記事では、本誌YouTubeチャンネルの動画「「悪いのは西側」ロシアの新しい歴史教科書には陰謀論がてんこ盛り...その驚愕の内容とは【アニメで解説】」の内容をダイジェスト的に紹介する。

 
◇ ◇ ◇

9月1日、ロシアとロシアが不当に占領するウクライナの一部地域でも新学期が始まり、高校1年生と2年生に新しい何冊かの教科書が配られた。なかでも注目すべきは、1945年から今日までを扱う高2の『ロシア史』の教科書で、対ウクライナ戦に関するクレムリン流の解釈を次世代に刷り込もうとしている。

高2の『ロシア史』教科書

この教科書の編者ウラジーミル・メジンスキーは歴史家ではなく、ウラジーミル・プーチン大統領の下で文化相を務めたプロパガンダのプロだ。「ロシアの国益を損なう歴史改ざんに対抗する大統領委員会」の一員として、ひたすらプーチン体制の美化に取り組んできた人物なのだ。

新教科書の編者ウラジーミル・メジンスキー

ロシアは常に外敵に包囲され、悪者扱いされてきた──といったゆがんだ歴史観はソ連時代からのものだが、この教科書はさらに踏み込んだ内容だ。

ナチス・ドイツを撃破したのは自分たちなのに、その後は西側諸国とその同盟国に裏切られてばかりいると主張。一方で、スターリン時代の大量虐殺や強制移住、政治犯の収監、大量粛清などにはほとんど触れていない。

ロシアのゆがんだ歴史観

歴史の抹殺もみられる。例えばクリミア半島は「昔から」ロシアのもので、その住民の「絶対的多数」は民族的ロシア人だとされているが、クリミアでロシア人が多数派になったのは占領と「民族浄化」の結果だ。

スターリンは先住のタタール人に「ナチスの協力者」のレッテルを貼り、クリミア半島から追い出して辺境への移住を強い、膨大な数の犠牲者を出した。タタール人の追放後に組織的な入植が行われ、無人になったクリミアの町や村に民族的ロシア人が住みついた事実は都合よく省かれている。

スターリンによるタタール人の強制移住

1960年代から70年代にかけての反体制運動についても、「一定の検閲があった」とさらっと触れる程度。これについても、悪いのは検閲された芸術家や作家、映画監督や音楽家たちだと論じている。

悪いのは検閲された芸術家ら

全編にわたって強調されるのは、ロシアという国の「見え方」だ。

ベルリンの壁の建設もソ連時代の粛清や集団移住も、それがロシアの見え方をどう変えたかという視点で記述される。この世界には自然に起きることなど一つもなく、全ての出来事の裏には隠された意図がある──そういう陰謀史観だ。

ロシアの「見え方」が何より大事

この教科書は、どう見ても暗いロシア経済の先行きと国際的孤立を「明るい未来の先駆け」と説明している。

「今のロシアにはチャンスがあふれている」というが、それは卒業後に徴兵令状が来て、どこかの国の焼け野原で占領地を守るためと称して塹壕に放り込まれなければの話だ。

今の状況を「明るい未来の先駆け」と説明する新教科書

■詳しくは動画をご覧ください。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

高市政権の経済対策「柱だて」追加へ、新たに予備費計

ビジネス

アングル:長期金利1.8%視野、「責任ある積極財政

ビジネス

米SEC、仮想通貨業界を重点監督対象とせず

ビジネス

ビットコイン9万ドル割れ、リスク志向後退 機関投資
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 7
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 10
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中