最新記事
ロシア

誰も驚かない「いかにも」なプリゴジンの最期...だからこそ「ワグネル・ブランド」は今後もアウトローを魅了し続ける

Branding Wagner after Prigozhin

2023年8月28日(月)13時40分
クララ・ブルーカルト(安全保障問題研究者)、コリン・クラーク(米スーファンセンター上級研究員)

ワグネルというブランドは、最初から暴力を売りにしていた。組織の名称はドイツの国民的作曲家リヒャルト・ワーグナーにちなむ(アドルフ・ヒトラーがワーグナーを崇拝していたのは有名な話だ)。

モットーは「血、名誉、祖国、勇気」で、ブランドのロゴには照準器の十字線に囲まれた髑髏(どくろ)が描かれ、英語とロシア語で社名が刻まれている。

世界中にその名が知れ渡るのはウクライナ戦争の最前線に立ってからのことだが、ブランド構築の努力は何年も前から続いていた。国内外に向けた宣伝工作と人材確保のため、自主制作の映画を何本も発表して、戦闘員たちのヒロイックな「活躍」を伝えてきた。

例えば21年の『ツーリスト』という作品は中央アフリカ共和国が舞台で、ワグネルの戦闘員がいかに高度な訓練を受け、殺傷能力に優れたエリートかを描いている。

一般受けのする手法ではないが、一部の変質者を標的とするマーケティングには効果的だ。過激派組織「イスラム国」(IS)も同じ手法を用いていた。ISは、斬首や火刑、人身売買などの動画をばらまいて心のゆがんだ男たちを集める一方、一般大衆には恐怖心を植え付けることに成功した。

ワグネルも同様だが、その暴力性に魅せられるのは変質者だけではない。世界各地の独裁者や軍事政権、クーデターをもくろむ者たちもワグネルの大事な顧客だ。

ワグネルはまた、戦場でのプロパガンダにもたけている。メッセージアプリのテレグラムやロシア版SNS「VK」を通じて、病的なまでに勇猛果敢なカルト的イメージを拡散させるのが得意で、時には自作自演のフィクションも織り交ぜて、戦場での野蛮で残虐な行為を英雄的なシーンに仕立て上げてしまう。

しかし、その過剰な暴力性というイメージを除けば、ワグネルというブランドの放つオーラの大半はまやかしだ。ワグネルは「民間軍事会社」を自称しているが、その実態は「民間」には程遠い。

この6月下旬にはプーチン自身が、ワグネルには政府が資金を提供しており、過去1年だけで10億ドル以上も払ってきたと認めている。そもそもロシアには民間軍事会社など存在しないはずだが、ワグネルだけは宣伝も戦闘員の募集活動も許されている。

ロシアの国営メディアもワグネルに好意的な映像を流してきた。だから国内でのワグネルの人気は高い。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日銀、25年度GDPを小幅上方修正の可能性 関税影

ビジネス

日経平均は大幅反発、初の4万9000円 政局不透明

ワールド

豪、中国軍機の照明弾投下に抗議 南シナ海哨戒中に「

ワールド

ゼレンスキー氏、パトリオット・システム25基購入契
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「実は避けるべき」一品とは?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心…
  • 7
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みん…
  • 8
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 9
    「中国は危険」から「中国かっこいい」へ──ベトナム…
  • 10
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 7
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 8
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 9
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 10
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中