誰も驚かない「いかにも」なプリゴジンの最期...だからこそ「ワグネル・ブランド」は今後もアウトローを魅了し続ける
Branding Wagner after Prigozhin
ワグネルというブランドは、最初から暴力を売りにしていた。組織の名称はドイツの国民的作曲家リヒャルト・ワーグナーにちなむ(アドルフ・ヒトラーがワーグナーを崇拝していたのは有名な話だ)。
モットーは「血、名誉、祖国、勇気」で、ブランドのロゴには照準器の十字線に囲まれた髑髏(どくろ)が描かれ、英語とロシア語で社名が刻まれている。
世界中にその名が知れ渡るのはウクライナ戦争の最前線に立ってからのことだが、ブランド構築の努力は何年も前から続いていた。国内外に向けた宣伝工作と人材確保のため、自主制作の映画を何本も発表して、戦闘員たちのヒロイックな「活躍」を伝えてきた。
例えば21年の『ツーリスト』という作品は中央アフリカ共和国が舞台で、ワグネルの戦闘員がいかに高度な訓練を受け、殺傷能力に優れたエリートかを描いている。
一般受けのする手法ではないが、一部の変質者を標的とするマーケティングには効果的だ。過激派組織「イスラム国」(IS)も同じ手法を用いていた。ISは、斬首や火刑、人身売買などの動画をばらまいて心のゆがんだ男たちを集める一方、一般大衆には恐怖心を植え付けることに成功した。
ワグネルも同様だが、その暴力性に魅せられるのは変質者だけではない。世界各地の独裁者や軍事政権、クーデターをもくろむ者たちもワグネルの大事な顧客だ。
ワグネルはまた、戦場でのプロパガンダにもたけている。メッセージアプリのテレグラムやロシア版SNS「VK」を通じて、病的なまでに勇猛果敢なカルト的イメージを拡散させるのが得意で、時には自作自演のフィクションも織り交ぜて、戦場での野蛮で残虐な行為を英雄的なシーンに仕立て上げてしまう。
しかし、その過剰な暴力性というイメージを除けば、ワグネルというブランドの放つオーラの大半はまやかしだ。ワグネルは「民間軍事会社」を自称しているが、その実態は「民間」には程遠い。
この6月下旬にはプーチン自身が、ワグネルには政府が資金を提供しており、過去1年だけで10億ドル以上も払ってきたと認めている。そもそもロシアには民間軍事会社など存在しないはずだが、ワグネルだけは宣伝も戦闘員の募集活動も許されている。
ロシアの国営メディアもワグネルに好意的な映像を流してきた。だから国内でのワグネルの人気は高い。