最新記事
ウクライナ戦争

ウクライナの子供たち2万人を拉致...未曽有の戦争犯罪に突き進むプーチンの目的とは?

UKRAINE’S STOLEN CHILDREN

2023年8月2日(水)15時00分
東野篤子(筑波大学教授)

まず、侵略開始3カ月後の22年5月30日、プーチンはウクライナ人孤児をロシア人家庭の養子にし、ロシア国籍を付与するプロセスを簡素化するための大統領令に署名している。さらに22年後半にかけて、クリミアを中心とした地域でウクライナ人の子供たちがロシア人家庭に引き渡される映像が、ロシアのメディアで頻繁に流されるようになった。

さらに今年3月16日には、プーチンが大統領公邸執務室にリボワベロワを招き、ウクライナの子供たちのロシア家庭への養子縁組が順調に進展していることを報告させた。この会談の一部はテレビで放映され、その際にリボワベロワがマリウポリ出身の10代の男子を養子としたことも、本人の口から語られた。

つまり、ロシア側はウクライナ人の子供をロシア支配地域やロシア本土に連れ去り、積極的に養子縁組を進めていることを一切隠していない。むしろ、ウクライナの子供たちを戦禍から救うための人道支援や慈善事業であるかのように喧伝している。こうした側面が皆無であることを立証するのもまた困難ではあるが、最大の問題は保護者や関係者の同意なく、そして当事者である子供の意思に反してロシア当局が連れ去りを主導し、ほぼ強制的にロシア人の家庭に養子縁組させている事例が大多数を占めていることである。

プーチンの逮捕はほぼ不可能

ウクライナ人の家族が望んでも、子供を捜すことも取り返すことも困難を極めるのであれば、ロシア側による「人道支援」という主張は一気に信憑性を失う。ICCの判断の背景には、プーチンに逮捕状を出さなければ同種の犯罪の再発を止められないとの判断があったとされる。

とはいえ、プーチンの逮捕の実現はほぼ不可能とみられていることもまた事実である。ICCから逮捕状が出た以上、ICCの設置法「ローマ規程」に加盟する123カ国には、プーチンを逮捕する義務が生じる。しかし逆に言えば、プーチンがロシア国外に出てICC加盟国に入国しなければ逮捕することはできない。

それでも、ICCによる逮捕状の効果は確実に出つつある。プーチンは8月に南アフリカで開催が予定されているBRICS首脳会議への対面出席を取りやめている。ICC加盟国の南アフリカはプーチンが入国した場合には拘束する義務があったが、同国はプーチン拘束に後ろ向きの姿勢を見せていた。今回のプーチンの対面出席の取りやめは、南アフリカがICC加盟国としての義務とロシアとの関係の板挟みで苦境に陥ったことを、ロシアとしても無視できなくなったことを示唆している。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

医薬品メーカー、米国で350品目値上げ トランプ氏

ビジネス

中国、人民元バスケットのウエート調整 円に代わりウ

ワールド

台湾は31日も警戒態勢維持、中国大規模演習終了を発

ビジネス

中国、26年投資計画発表 420億ドル規模の「二大
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 8
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中