最新記事
ウクライナ戦争

ウクライナの子供たち2万人を拉致...未曽有の戦争犯罪に突き進むプーチンの目的とは?

UKRAINE’S STOLEN CHILDREN

2023年8月2日(水)15時00分
東野篤子(筑波大学教授)

230808p24_KST_02.jpg

ウクライナ東部ドネツク州の孤児院からロシアのキャンプに連れてこられた子供たち AP/AFLO

ロシアがこうした連れ去りを行う真の目的は十分に解明されているとは言い難い。かつて日本が経験したシベリア抑留のように、人口減が見込まれるロシアにおける労働力の確保という見方もある。ロシア当局はこの連れ去りを「戦争に伴う一時的な子供の保護措置」と説明し、ウクライナ側は「民族浄化の試み」であるとしており、両者の言い分は真っ向から食い違う。

連れ去りは組織的かつ徹底的

しかし仮にこれがロシアの主張どおりに「一時的な保護措置」であるなら、前述したようなロシア語の使用の強制や、ウクライナ人としてのアイデンティティーを奪うための措置を行うことの説明がつかない。

ウクライナの多くの識者はこの措置を、同国の将来を担う子供たちを物理的に引き離し、ウクライナ人の子供を「元手」として、「ウクライナに敵対的なウクライナ出身者」を人工的につくり上げる試みであると指摘する。ロシアが将来的に再びウクライナに侵攻を試みるのならば、真っ先に動員されるのはこうしたウクライナから連れ去られた子供たちだろう、とも。残念ながらこのような見方が排除できないほど、ロシアによる子供の連れ去りは組織的かつ徹底的に実施されている。

こうした状況の中、国際刑事裁判所(ICC)は今年3月17日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領とマリヤ・リボワベロワ大統領全権代表(子供の権利担当)に逮捕状を出した。ウクライナにおけるロシア占領地域から子供たちをロシアに不法に移送したことは戦争犯罪に当たるとの理由だ。ICCのカリム・カーン検察官は「子供たちを戦争の戦利品として扱うことは許されない」と、ロシア当局を非難している。

問題発覚から1年足らずでICCが逮捕状の発出に踏み切ったことは、事態の深刻さとロシアの行為の悪質性をめぐる国際社会の認識が共有された結果と言える。しかしそれでも、ICCがプーチンを戦争犯罪人として名指しし、逮捕状を出す決定に至ったことは、多くの人を驚かせた。

ICCがなぜこのような重大な決定に踏み切ったのか。その背景には、プーチンが子供の連れ去りに関して直接的に指示を出していることを示すさまざまな証拠が存在したことが挙げられる。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相、反ユダヤ主義助長と豪首相を非難 ビ

ビジネス

インタビュー:プライベートデット拡大へ運用会社買収

ワールド

ウクライナのNATO加盟断念、和平交渉に大きく影響

ワールド

米ブラウン大銃撃、当局が20代の重要参考人拘束
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 5
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中