これはもはやジェノサイド...ウクライナを歴史から抹消、若い血をロシアに移植──連れ去りとロシア化教育にみるプーチンの野望
GENOCIDAL INTENT
配給を待つ市民と警戒に当たるロシア兵(昨年3月、マリウポリで) ALEXANDER ERMOCHENKOーREUTERS
<ウクライナは必ずこの戦争で勝利を収め、子供たちの連れ去りも食い止めなければならない。本誌「ルポ ウクライナ子供拉致」特集より>
ロシアのウクライナ侵攻がジェノサイド(集団虐殺)戦争であることが次第に明らかになっている。ジェノサイド目的で断固として遂行されるウクライナ戦争は、ウクライナの人々と国家だけでなく、ウクライナ人の国民性そのものに対する攻撃だ。無差別殺人や集団レイプに加え、ロシアによるウクライナの子供たちの連れ去りも明らかになっている(1948年のジェノサイド条約は、集団の児童を他の集団に強制的に移すことをジェノサイドと規定)。
昨年12月24日付のワシントン・ポスト紙はロシアの計画を詳細に報道した。ウクライナの大勢の子供たちを船でロシアに移送し、ロシア人の養子にしてロシア人として育て、ウクライナを消滅させるというものだ。
こうした話は、過去1年間にロシアによる占領を経験したウクライナ各地にあふれている。ロシアの侵攻で親を殺された孤児までもがロシア軍部隊によってロシアに送られ、「おまえたちは最初からロシア人であって、ウクライナ人だったことなどない」と言い聞かされるという。ロシアのジェノサイド戦争をより大きな枠組みで文化的に解釈すれば、ウクライナは今も昔も存在せず、歴史から抹消されるべきだ、というのがロシア当局の考えなのだ。
ニューライン研究所とラウル・ワレンベリー人権・人道法研究所(スウェーデン)は昨年5月、ロシアによるジェノサイドの法的側面に関する共同報告書で、ジェノサイドの文化的側面にも言及した。「ロシア高官はウクライナの言語や文化や国民性の存在を繰り返し否定し、ウクライナ人を自任する人々はロシア人とウクライナ人の『一体性』を脅かすとほのめかしている」
ロシア当局のこうした考え方がピークに達したのは、2014年にウクライナ南部のクリミアを併合し、東部ドンバス地方で開戦してからだ。ロシアの国営メディアや政府系シンクタンクは、ロシア人とウクライナ人は「兄弟」だという考えに基づく報道を続けた。
ロシア政府直属のシンクタンクであるロシア戦略調査研究所(RISS)は14年、クリミアとドンバスの一部制圧を受けて「ロシア世界の一体性のため」に「ウクライナはロシアである」と題した論文集を発表。ある寄稿は「ウクライナ人の国民性」なる概念を「ロシア南部特有の欧米主義」と呼んだ。自身をウクライナ人だと考える人々は精神を病んでいるか外国かぶれだ、と主張するためのゆがんだ表現だ。