最新記事
アメリカ社会

「マイノリティ優遇」は憲法違反...人種に基づく「差別是正措置」に反対する声がアメリカで多数派になり始めた意味とは?

End of an Unpopular Law

2023年7月6日(木)16時07分
ニック・モルドワネク(政治担当)
アジア系アメリカ人の若者たち

最高裁判断の当日には、アファーマティブ・アクションへの支持を訴えるアジア系アメリカ人の若者たちの姿も EVELYN HOCKSTEINーREUTERS

<大学入学時の「少数派優遇」は白人やアジア系への差別という認識が広がるが、廃止された州では黒人やアメリカ先住民の学生が大幅に激減>

入学選考に当たって志願者の人種を考慮するハーバード大学、およびノースカロライナ大学の制度は是か非か。判断をめぐって、米連邦最高裁判所判事らの意見は両極端に分かれた。

だが最近の世論調査では、マイノリティーを優遇するアファーマティブ・アクション(差別是正措置)の廃止を支持するアメリカ人の割合が、政治的信条を問わず、今や過半数に達しかけている。

2つの大学を相手取って訴訟を起こしたのは、保守派NPO「公正な入学選考を求める学生たち(SFFA)」だ。高等教育機関へのマイノリティー志願者を増やすため、人種・民族を選考基準の1つとする措置を全米で即時廃止するよう、同団体は求めている。

訴えを受けて最高裁は6月29日、人種に基づく入学選考は米市民の平等な保護を定め、権利を保障する合衆国憲法修正第14条に違反するとの判断を示した。判事9人のうち保守派6人が支持したこの判断は、アファーマティブ・アクションを違憲としたに等しい。

ニューヨーク・タイムズの世論調査では、アメリカの3つの主な有権者層の意見が驚くほど一致している。

私立大学のアファーマティブ・アクションに反対する人の割合は、共和党支持者が78%、無党派が72%、民主党支持者が58%。公立大学の場合は反対がさらに強く、その割合は共和党支持者の88%、無党派の75%、民主党支持者の60%に上る。

ピュー・リサーチセンターが昨年3月に実施した調査では、入学選考の際には高校時代の成績や共通テストの得点、社会貢献活動という点を重視すべきだと考える人のほうが多かった。

既に9州が禁止を決定

黒人やラティーノ(中南米系)を優遇するハーバード大学とノースカロライナ大学の措置は、白人やアジア系の志願者に対する差別だと、SFFAは訴えていた。ジョン・ロバーツ最高裁長官は今回の判断で、両大学の方針は憲法修正第14条違反だとの見解を記している。

一方、リベラル派のケタンジ・ブラウン・ジャクソン判事は反対意見を展開。「今や多数派は無関心の下で非常手段に訴え、法的判断によって『肌の色を無視せよ』と宣言している」と述べた。

試写会
カンヌ国際映画祭受賞作『聖なるイチジクの種』独占試写会 50名様ご招待
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中