まさかの誤算...人間の保護下で暮らす絶滅危惧種、「あらぬ方向」に急速な進化を遂げてしまったことが判明
The Species Evolving in the Wrong Direction
フサオネズミカンガルー(1999年) MARK BAKER-Reuters
<天敵のいない環境で保護されて暮らすうちに、「天敵に捕獲されやすい」方向へと急速に進化しつつあることが研究で明らかに>
オーストラリアに生息する可愛らしい有袋類「フサオネズミカンガルー」は、人類が持ち込んだ動物に捕食されたり、生息地を奪われたりした結果、絶滅の危機に追い詰められた。現在では人間の手で保護されて徐々に数を増やしているのだが、その結果として「あらぬ方向」へと急速に進化してしまっているのだという。自然で生き延びられるようになってほしい、という科学者の思いに反する皮肉な流れだ。
■【動画】保護下で暮らし続けた結果、間違った方向に進化してしまったフサオネズミカンガルー
オーストラリアの南部と西部に生息するフサオネズミカンガルーは、絶滅危惧種に指定されている有袋類だ。生息数を増やすために、現在ではそのほとんどが、天敵のいない自然保護区のなかで、守られながら暮らしている。
フサオネズミカンガルーは大きさが小型のネコほどで、かつてはオーストラリア全域に生息していたが、現在はほぼ全滅してしまった。原因は、小型有袋類を捕食するアカギツネや野ネコ(野生化したイエネコ)が環境に入り込んだことだ。また、ウサギがヨーロッパから持ち込まれて繁殖し、生息地と餌を奪われてしまった。
フサオネズミカンガルーは、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで、ごく近い将来に野生での絶滅の危険性がきわめて高い「絶滅危惧IA類(CR)」に指定されている。2011年には個体数が約5600匹まで減少したとみられるが、現在は1万2000匹から1万8000匹にまで回復している。
「保護活動が意図した効果をあげていない可能性」
ところが、天敵に遭遇する機会がなくなったため、一部の集団では、捕食者から身を守るための能力が急速に失われつつあるという。保全生物学ジャーナル「バイオロジカル・コンサベーション」で、2023年5月に発表された研究論文で明らかになった。
「天敵に遭遇したときに、適切な反応を示さず身を守れなければ、自然環境に戻すことはできない。それは、私たちが取り組んでいる保護活動が、意図した効果をあげていない可能性があるということだ」。論文の筆頭著者で、西オーストラリア大学生命科学大学院の博士課程に在籍するタッシュ・ハリスンは、豪ABCニュースへの取材でそう述べている。
生存を脅かす天敵のいない安全な場所で守られてきたことで、自らの身を守れない方向へと進化を遂げつつあるというのは、なんとも皮肉な話だ。