まさかの誤算...人間の保護下で暮らす絶滅危惧種、「あらぬ方向」に急速な進化を遂げてしまったことが判明
The Species Evolving in the Wrong Direction
西オーストラリア州の州都パースから南に300kmほど離れた町マンジマップ近郊に、ペラップ自然保護区がある。研究チームは、この自然保護区内に生息するフサオネズミカンガルーについて10年分のデータを調査し、近くの野生生息地で生息するフサオネズミカンガルーの個体数データと比較した。この野生生息地の集団は、残された2カ所の自然個体群の1つだ。
「自然保護区内で、10年間にわたって守られて暮らしてきたフサオネズミカンガルーは、捕食回避反応が弱くなっていることがわかった」とハリスンは話す。「つまり、反応が鈍り、天敵から逃げられる可能性が低くなったのだ」
「キツネやネコから逃げる必要がなくなったため、小型化し、脚も短くなった。体が大きいメリットがあまりないからだ。また、野生的な捕食回避反応もみせなくなった。たとえば、敵の気をそらすために、お腹の袋にいる子どもを地面に落とす(危機に瀕して袋の筋肉が弛緩し、子どもがそこから転げ落ちる)などの行動があまり見られなくなった」
あえて危険度の低い捕食者と遭遇させる
ということは、絶滅寸前のフサオネズミカンガルーを守るためには、異なる保護戦略をとるべきなのかもしれない。たとえば、危険度の低い捕食者と遭遇させるなどして、そうした選択圧(進化の過程で生物に働く自然選択の作用)を、進化の方程式に維持しておく必要がある。
「保護区で暮らす他の種も、フサオネズミカンガルーと同じく、キツネやネコから身を守る術を失いつつあるのだとしたら、私たちの取り組みは実質的に、保護区での暮らしに依存するよう仕向けていることになる。また、キツネやネコを完全に排除せずに本来の生息地全域で種を回復させることが難しくなる可能性がある」
西オーストラリア州の生物多様性保全観光資源局(DBCA)の上級科学研究員で、西オーストラリア大学の特別研究員でもあるエイドリアン・ウェインは、豪ABCニュースの取材でそう語った。「それが目下の大きな課題だ」
少数のキツネかネコ、あるいは、オグロフクロネコのような危険度の低い天敵に遭遇させ、捕食回避特性が進化の過程で失われないようにすれば、絶滅の危機に瀕する有袋類を完全な野生に戻す日がより近づくかもしれない。
「そうすれば、繁殖できるだけでなく、身を守る能力も維持されるだろう。その能力は、長期的に種の保存と回復に欠かせないものだ」とウェインは述べている。
(翻訳:ガリレオ)