最新記事
動物

まさかの誤算...人間の保護下で暮らす絶滅危惧種、「あらぬ方向」に急速な進化を遂げてしまったことが判明

The Species Evolving in the Wrong Direction

2023年6月11日(日)13時00分
ジェス・トンプソン

西オーストラリア州の州都パースから南に300kmほど離れた町マンジマップ近郊に、ペラップ自然保護区がある。研究チームは、この自然保護区内に生息するフサオネズミカンガルーについて10年分のデータを調査し、近くの野生生息地で生息するフサオネズミカンガルーの個体数データと比較した。この野生生息地の集団は、残された2カ所の自然個体群の1つだ。

「自然保護区内で、10年間にわたって守られて暮らしてきたフサオネズミカンガルーは、捕食回避反応が弱くなっていることがわかった」とハリスンは話す。「つまり、反応が鈍り、天敵から逃げられる可能性が低くなったのだ」

「キツネやネコから逃げる必要がなくなったため、小型化し、脚も短くなった。体が大きいメリットがあまりないからだ。また、野生的な捕食回避反応もみせなくなった。たとえば、敵の気をそらすために、お腹の袋にいる子どもを地面に落とす(危機に瀕して袋の筋肉が弛緩し、子どもがそこから転げ落ちる)などの行動があまり見られなくなった」

あえて危険度の低い捕食者と遭遇させる

ということは、絶滅寸前のフサオネズミカンガルーを守るためには、異なる保護戦略をとるべきなのかもしれない。たとえば、危険度の低い捕食者と遭遇させるなどして、そうした選択圧(進化の過程で生物に働く自然選択の作用)を、進化の方程式に維持しておく必要がある。

「保護区で暮らす他の種も、フサオネズミカンガルーと同じく、キツネやネコから身を守る術を失いつつあるのだとしたら、私たちの取り組みは実質的に、保護区での暮らしに依存するよう仕向けていることになる。また、キツネやネコを完全に排除せずに本来の生息地全域で種を回復させることが難しくなる可能性がある」

西オーストラリア州の生物多様性保全観光資源局(DBCA)の上級科学研究員で、西オーストラリア大学の特別研究員でもあるエイドリアン・ウェインは、豪ABCニュースの取材でそう語った。「それが目下の大きな課題だ」

少数のキツネかネコ、あるいは、オグロフクロネコのような危険度の低い天敵に遭遇させ、捕食回避特性が進化の過程で失われないようにすれば、絶滅の危機に瀕する有袋類を完全な野生に戻す日がより近づくかもしれない。

「そうすれば、繁殖できるだけでなく、身を守る能力も維持されるだろう。その能力は、長期的に種の保存と回復に欠かせないものだ」とウェインは述べている。
(翻訳:ガリレオ)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

EUが排ガス規制の猶予期間延長、今年いっぱいを3年

ビジネス

スペースX、ベトナムにスターリンク拠点計画=関係者

ビジネス

独メルセデス、安価モデルの米市場撤退検討との報道を

ワールド

タイ、米関税で最大80億ドルの損失も=政府高官
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中