欧米学生向けの闇代筆バイトに従事するケニアの若者、ChatGPTに駆逐されるか?
ただ、ランガットさんは、教師が賢くなってAI特有の文章を見極めるようになれば、人間の仕事がAIに打ち勝てると期待している。
「一部の講師や教授は、オリジナルの文章とAIが生成した文章を区別して見破ることができる。だから、ライターの仕事は再び上向いてきた」という。
中心地はケニア
ケニアは「アカデミック・ライティング」の中心地だ。ITに強く、英語を話す大卒者が多いため、世界中の学生から依頼がある。
ランガットさんは同業者と学生の合わせて17万人以上が入っているフェイスブックのグループを見ながら「世界のアカデミック・ライティング市場は膨大で、特に顕著な市場はケニア、ナイジェリア、南アフリカ、そして東南アジアの一部だ」と説明した。
ブームの始まりは10年前だった。ケニアの大卒者らは自分のスキルに見合った職に就けず、労働市場にあふれ出した。
国際労働機関(ILO)によると、ケニアの失業率は5.5%で、15―24歳では13.35%に上る。この結果、大卒者は自分の頭脳を別の方面に使い、高収入を得るようになった。
ケニアの首都ナイロビで統計学を学んでいるローラさん(22)は2021年、友達に代わって看護に関するエッセーを書いて約1000ドルを稼いで以来、アカデミック・ライティングの仕事に力を入れるようになった。
市場の大きさに気付いたローラさんは、ネット上に自分のアカウントを立ち上げ、米国の学生らと直接やり取りを開始。ほどなくこのビジネスは急拡大した。
「点数を付けるシステムがあり、良い点数がもらえると仕事が舞い込んでくる。私は今、3つアカウントを持っていて、学生を中心に他にもライターを雇っている。もう両親にお金をねだることはなくなり、それどころか扶養費を送っている」という。
ローラさんはもう、卒業後に典型的な仕事に就くことを夢見ていない。今の収入並みの給料を払ってくれる企業は、存在しないと感じている。「月によっては収入が3000ないし7000ドルに達する。暇なシーズンもあるけど貯金は十分」だと語った。
米ウィスコンシン州の大学生、ハロルドさんは、この2年間で宿題6件を3人のアカデミック・ライターに依頼したほか、エッセー4本に対して1100ドルを支払った。友達の勧めに基づき、ケニア人にしか発注していないという。
「ケニア人に依頼した文章が、教授に見破られたことはほとんどない。これからもポケットマネーを払って仕事をしてもらいたい」とハロルドさんは語った。
チャットGPTの台頭
ハロルドさんはチャットGPTの利用も試みたが、その結果はまちまちだ。
「そこまで賢くないから、有能な教授はどれがオリジナルの文章かを見分けられるだろう。僕が出した文章は一度突き返されたので、また、アフリカのアカデミック・ライターに依頼することにした」という。
学界関係者らは、チャットGPTの文章にはミスや独自性がないため、使っていれば見破れると言う。
ケニアのキバビー大学のIT講師、ディクソン・ゲコムベ氏は「機械が作ったエッセーと学生が書いたエッセーは見分けられる。機械を使って書かれたものは、スペルミスや文法的な間違いがなく、流れるような文章だ」と話した。
つまり、AIは良い提出物を作る一方で、怠惰な学生を生み出すことにもなるとゲコムベ氏は言う。
「学生は読書をする文化を失い、研究能力も下がってしまうだろう」とゲコムベ氏。「そして、『代わりにやってくれるものがここにあり、その間に私はほかのことができるのに、なぜ私は図書館に行き、研究をして、時間を無駄にしなければならないのか』と言うだろう」
(Dominic Kirui記者)