最新記事
教育

欧米学生向けの闇代筆バイトに従事するケニアの若者、ChatGPTに駆逐されるか?

2023年6月5日(月)13時01分
ロイター

ただ、ランガットさんは、教師が賢くなってAI特有の文章を見極めるようになれば、人間の仕事がAIに打ち勝てると期待している。

「一部の講師や教授は、オリジナルの文章とAIが生成した文章を区別して見破ることができる。だから、ライターの仕事は再び上向いてきた」という。

中心地はケニア

ケニアは「アカデミック・ライティング」の中心地だ。ITに強く、英語を話す大卒者が多いため、世界中の学生から依頼がある。

ランガットさんは同業者と学生の合わせて17万人以上が入っているフェイスブックのグループを見ながら「世界のアカデミック・ライティング市場は膨大で、特に顕著な市場はケニア、ナイジェリア、南アフリカ、そして東南アジアの一部だ」と説明した。

ブームの始まりは10年前だった。ケニアの大卒者らは自分のスキルに見合った職に就けず、労働市場にあふれ出した。

国際労働機関(ILO)によると、ケニアの失業率は5.5%で、15―24歳では13.35%に上る。この結果、大卒者は自分の頭脳を別の方面に使い、高収入を得るようになった。

ケニアの首都ナイロビで統計学を学んでいるローラさん(22)は2021年、友達に代わって看護に関するエッセーを書いて約1000ドルを稼いで以来、アカデミック・ライティングの仕事に力を入れるようになった。

市場の大きさに気付いたローラさんは、ネット上に自分のアカウントを立ち上げ、米国の学生らと直接やり取りを開始。ほどなくこのビジネスは急拡大した。

「点数を付けるシステムがあり、良い点数がもらえると仕事が舞い込んでくる。私は今、3つアカウントを持っていて、学生を中心に他にもライターを雇っている。もう両親にお金をねだることはなくなり、それどころか扶養費を送っている」という。

ローラさんはもう、卒業後に典型的な仕事に就くことを夢見ていない。今の収入並みの給料を払ってくれる企業は、存在しないと感じている。「月によっては収入が3000ないし7000ドルに達する。暇なシーズンもあるけど貯金は十分」だと語った。

米ウィスコンシン州の大学生、ハロルドさんは、この2年間で宿題6件を3人のアカデミック・ライターに依頼したほか、エッセー4本に対して1100ドルを支払った。友達の勧めに基づき、ケニア人にしか発注していないという。

「ケニア人に依頼した文章が、教授に見破られたことはほとんどない。これからもポケットマネーを払って仕事をしてもらいたい」とハロルドさんは語った。

チャットGPTの台頭

ハロルドさんはチャットGPTの利用も試みたが、その結果はまちまちだ。

「そこまで賢くないから、有能な教授はどれがオリジナルの文章かを見分けられるだろう。僕が出した文章は一度突き返されたので、また、アフリカのアカデミック・ライターに依頼することにした」という。

学界関係者らは、チャットGPTの文章にはミスや独自性がないため、使っていれば見破れると言う。

ケニアのキバビー大学のIT講師、ディクソン・ゲコムベ氏は「機械が作ったエッセーと学生が書いたエッセーは見分けられる。機械を使って書かれたものは、スペルミスや文法的な間違いがなく、流れるような文章だ」と話した。

つまり、AIは良い提出物を作る一方で、怠惰な学生を生み出すことにもなるとゲコムベ氏は言う。

「学生は読書をする文化を失い、研究能力も下がってしまうだろう」とゲコムベ氏。「そして、『代わりにやってくれるものがここにあり、その間に私はほかのことができるのに、なぜ私は図書館に行き、研究をして、時間を無駄にしなければならないのか』と言うだろう」

(Dominic Kirui記者)


[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2023トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


食と健康
消費者も販売員も健康に...「安全で美味しい」冷凍食品を届け続けて半世紀、その歩みと「オンリーワンの強み」
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

フィッチが仏国債格下げ、過去最低「Aプラス」 財政

ビジネス

中国、米の半導体貿易政策を調査 「差別的扱い」 通

ワールド

アングル:米移民の「聖域」でなくなった教会、拘束恐

ワールド

トランプ氏、NATOにロシア産原油購入停止要求 対
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で最も「火山が多い国」はどこ?
  • 9
    村上春樹は「どの作品」から読むのが正解? 最初の1…
  • 10
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中