最新記事
ウクライナ情勢

ウクライナ、反攻のカギは「最初の24時間」にあり──消耗戦の泥沼を回避する唯一の道とは

Ukraine's Longest Day

2023年4月25日(火)12時10分
フランツシュテファン・ガディ(英国際戦略研究所上級研究員)
第2次大戦の末期、ノルマンディー上陸作戦を敢行する連合国軍の部隊(1944年)

第2次大戦の末期、ノルマンディー上陸作戦を敢行する連合国軍の部隊(1944年) PHOTO12ーUNIVERSAL IMAGES GROUP/GETTY IMAGES

<79年前の上陸作戦に学べ。そして再びロシア兵をパニック状態に追い込めばその先の道は開ける>

ウクライナ軍がいつ、どこで春の大規模な反攻に出るのかは分からない。だが確かなのは、勝負は最初の24時間で決まるということだ。

第2次大戦末期の1944年春、欧州戦線における連合国軍の反転攻勢を予期していたドイツのロンメル将軍は側近にこう語っていた。「攻撃が始まってから最初の24時間が勝負だ......連合国にとってもドイツにとっても、いちばん長い日になるぞ」

あのノルマンディー上陸作戦を描いたハリウッド映画『史上最大の作戦』(1962年)で有名になった言葉だ。そう、「砂漠の狐」と呼ばれた名将ロンメルは知っていた。攻勢においては緒戦でその後の展開が決まり、勝敗も、敵に与える戦略的打撃もそこで決まるのだと。

ウクライナ軍がいつ、どこを攻めるか。どれだけの兵力を用意できるか。西側の供与した新たな兵器がどれだけ役に立つか。そうした議論や臆測は山ほどあるが、確かなことを知り得るのはウクライナ軍の上層部のみ。火力や弾薬数、兵員数、前線への補給態勢でウクライナ軍が確実にロシア軍を上回っているかどうか、私たちが知るすべはない。ただ分かっているのは、この戦争がますます消耗戦の様相を強めていること。どちらの側にも決定力はなく、ひたすら相手の消耗を待っている。

今回の戦争の「いちばん長い日」がどんな形で終わろうと、この戦争が基本的に消耗戦だという事実からウクライナ軍が逃れるのは容易でない。たとえウクライナ軍が数で勝り、士気で勝り、装備で勝っているとしてもだ。

相手の虚を突く戦術

反転攻勢の緒戦でウクライナが消耗戦の泥沼を回避する道は、おそらく1つしかない。ロシア軍の指揮命令系統を麻痺させ、現場のロシア兵にパニックを起こさせることだ。彼らが戦闘を放棄して逃げ出すようなら、この戦闘は大成功となるだろう。

たとえ装備の質や兵員の数でウクライナ側が勝っていても、それだけでこうした成果は得られない。決め手となるのは戦術的サプライズと戦場でのリーダーシップ、そして戦う者の士気の高さだ。この3つがそろえば、最初の24時間を制することができよう。

この3つの要素に最新鋭の武器が加われば、ロシア兵をパニックに陥れ、その指揮命令系統を麻痺させ、一時的であれ破壊することも可能だ。具体的に言えば、まずはウクライナの機甲部隊が敵の重層的な防御網を突破し、速やかにロシア軍の後方に回り込む。そして前線基地や補給拠点などの指揮命令系統を脅かす。そうすれば、パニックと麻痺が拡散する。

自動車
DEFENDERの日本縦断旅がついに最終章! 本土最南端へ──歴史と絶景が織りなす5日間
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アクティビスト、世界で動きが活発化 第1四半期は米

ワールド

フィンランドも対人地雷禁止条約離脱へ、ロシアの脅威

ワールド

米USTR、インドの貿易障壁に懸念 輸入要件「煩雑

ワールド

米議会上院の調査小委員会、メタの中国市場参入問題を
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中