最新記事
ロシア

YouTubeにプーチンの嘘が蔓延...消しても消しても出現...誰の仕業か

RUSSIAN LIES ON YOUTUBE

2023年4月5日(水)13時20分
イーブァ・メイトランド(ニューズガードアナリスト)、マデリン・ローチ(同英国オフィス主幹)、ソフィア・テワ(同ニュース検証エディター)
プーチン

photo952-Shutterstock

<違反チャンネル・動画を削除しても、ロシア発のトンデモ情報があの手この手で拡散中>

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がカメラを凝視してこう言い放つ。「ウクライナ東部のドンバス地方で戦争を始めたのはわれわれだと吹聴する連中がいる──嘘だ!」

【関連記事】ロシアの「嘘」がバレた動画

彼はさらにすごみを利かせる。「始めたのは西側だ。2014年に憲法違反の武装クーデターを企て支援し、ドンバスの人々を片っ端から殺すジェノサイド(集団虐殺)を奨励し正当化した」

どの口がこんな嘘をとあきれるが、これはYouTubeチャンネル「アイ・アールグレイ」で公開された30分動画の一場面だ。ロシアの国営メディアによれば、このチャンネルの運営者は独立系ジャーナリストのマイク・ジョーンズ。だが動画を制作したのはジョーンズではない。

これはプーチン政権のプロパガンダを担う国営テレビのRT(旧ロシア・トゥデー)が制作し、もともとはRTの系列サイトRTD.RTで公開された映像だ。ニュースサイトの信頼性を評価する米格付け機関ニューズガードは、アイ・アールグレイに投稿された動画と「RT制作のドキュメンタリー」と明記されたRTD.RTの映像を付き合わせることで容易にこの事実を確認できた。

アイ・アールグレイに投稿されたこの動画の再生回数は3カ月で4万3000回。RTのロゴは消され、中身を見るまで(いや、人によっては見た後も)ロシアのプロパガンダ映像と気付かないようにしてある。

昨年2月24日にロシアがウクライナ侵攻を開始して以降、RTD.RTにアップされた戦争に関するプロパガンダ映像は50本に上る。ざっと週に1本のペースだ。これらの映像はこのサイトで無料で視聴できるほか、ニューズガードの調査でYouTubeでもロシア語版と英語版を視聴できることが分かった。一部の映像はフランス語版やスペイン語版も作られ拡散されている。

YouTubeは昨年3月、ロシアの国営メディア関連のチャンネルへのアクセスを全世界でブロックした。にもかかわらず、ニューズガードの調査で100以上のYouTubeチャンネルでウクライナ戦争に関するRT制作の映像が250本以上公開され、再生回数は合わせて50万回以上に上ることが分かった。

削除も収益化停止も免れる

YouTubeに投稿されたRTの映像のうち約200本にはRTのサイトのロゴが明記されているが、YouTubeの探知を免れるためか、RTとの関係を示す痕跡を全て消したものも50本あった。

これらの映像にはウクライナに関する悪質極まりない虚偽情報があふれている。親ロシア派政権を倒した14年のマイダン革命は「西側の支援を受けたクーデター」だったとか、冒頭で紹介したプーチンの言い草のように、ウクライナ政府はドンバスのロシア系住民を集団虐殺しているなどといったものだ。ウクライナは政治も社会も「ナチスの思想」に毒されていると主張する動画もある。

東京アメリカンクラブ
一夜だけ、会員制クラブの扉が開いた──東京アメリカンクラブ「バンケットショーケース」で出会う、理想のパーティー
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米国境警備隊、シャーロットの移民摘発 初日に81人

ワールド

エプスタイン文書「隠すものない」と米下院議長、公開

ワールド

北朝鮮軍、西部クルスクで地雷除去支援 ロシア国防省

ビジネス

米バークシャー、アルファベット株43億ドル取得 ア
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 6
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    反ワクチンのカリスマを追放し、豊田真由子を抜擢...…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中