一国主義が広がる世界に対し、日本とASEANが新しい将来像を提示する。
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続くセッション「持続可能で豊かな社会の実現に向けて」では、紛争が地域に与える影響、教育格差、エネルギー転換、宗教、女性の権利など、より幅広く具体的な課題に話題が広がった。カンボジア国立銀行副総裁のチア・セレイ氏は「われわれ全員は同じ船に乗っている。競争によって隣人や生活、気候を犠牲にして、最終的に残るのは何なのか。人々がどんな苦労をしているのか、理解することが必要」と訴えた。
ここまでの議論を踏まえ、最後のセッション「人々の相互理解と信頼醸成に向けて」では、主にアートの分野で活躍する'80年代生まれのパネリストを招き、課題が山積する社会においてアートが果たす役割を探った。「アートは歴史や記憶を考える場になる。この10~15年間、ASEANのアーティストの間では、各国の内戦や紛争が起こった時代に目を向ける動きがあった。作品を通じて、創造的かつ批判的に過去を振り返り、文脈を共有し、議論することができる」と答えたのは、パフォーマンス作家・キュレーター・研究者のマーク・テ氏。日本やASEAN諸国の間で、互いの歴史や文化について理解を深めるため、アートが大きな役割を果たすという見解を示した。
日・ASEANで課題を共有し、政治経済・社会・文化の3つの側面から、解決の糸口を探った本シンポジウム。閉会の挨拶として、国際交流基金の佐藤百合理事は、この日の成果をこう振り返った。「安全保障もビジネスも、ベースにあるのはやはり人と人とのつながり。お互いに認め合い、学び合える関係を深めていく必要があると改めて感じた。日本とASEANが半世紀にわたって積み重ねてきた信頼を、どのように世界の平和・安定・繁栄に活かしていくか。これが私たちの使命」。
国際的な信頼関係の源となるのは、互いの文化と立場への理解。今回のシンポジウムのような国際的・分野横断的な議論が、世界平和への礎となることを期待したい。