最新記事
中国

水増しされていた中国の人口、「本当は10億人だった説」の衝撃──ハッキングでデータ流出

Falsified Population

2023年3月15日(水)15時29分
練乙錚(リアン・イーゼン、香港出身の経済学者・コラムニスト)

これを購入した研究者たちが分析してみると、その数値は中国の実際の人口動態プロファイルと酷似していた。つまりデータは本物と考えていいのだが、統計処理に当たって総人口の70%(総数を14億とすれば10億)ものサンプルを使うことはあり得ない。

一般論として、そんな必要はないし、手間も費用もかかりすぎる。普通はどんなに多くても10%程度だ。中国政府は毎年、サンプル調査を基に人口の変動を推計しているが、その際に用いられるサンプル数は総人口の1%だ。

そう考えると、昨年のハッキングで流出したデータセットには(国民の70%ではなく)全国民の個人識別情報が含まれていた可能性が高い。つまり、中国の本当の人口は14億でも12億8000万でもなく、せいぜい10億人程度という可能性が出てくる。

この国の政治は依然として一枚岩のトップダウン型で、それがデータ改ざんを助長する体質を生んだ。人口の水増しを伴うようでは、中央政府の進める壮大な建設プロジェクトも無用なものとなろう。

高速道路や新幹線の建設を急ぎ、人口増を見込んで不動産を開発しても、入居者のいない新築物件のゴーストタウンを生み出すだけだ。関連業界も含め、収益性を欠く無用の事業ばかりで、今や不良債権が山積みされている。

統計偽装の弊害は高齢者の医療保険や年金にも及ぶ。1960年代に生まれたベビーブーム世代には、労働力の増加を前提として潤沢な支給が約束されていた。

ところが今、武漢などの大都市では「白髪革命」と呼ばれる抗議デモが起きている。医療保険の給付金減額に、高齢者が怒りの声を上げているのだ。

外交の分野では虚栄心に満ちた「一帯一路構想」が同じく持続不能となり、挫折しかけている。労働人口が増え続ければ経済は栄え、政府の資金も潤沢になる──。そんな前提で金をつぎ込んできたのだが、今や人口は減少に転じ、経済の先行きも暗い。

こういう展開は、同じような人口問題を抱える他の国々ではあり得ない。いわゆる計画経済に縛られていないから、誰も人口統計を改ざんする必要を感じないからだ。

しかし偽データの影響は他国にも及ぶ。外国の自動車メーカーや携帯電話の製造会社は、人口増という見込みがあればこそ中国に投資してきた。中国市場の拡大に期待し、安価な労働力を搾取して輸出品の生産もしてきた。これらも持続不能になる。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 7
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 8
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中