GDPの1.5%を占める性産業の合法化で、売春大国タイはどう変わるのか?
A GLOBAL CAPITAL OF SEX WORK
オーストラリアの人権団体ウォーク・フリーが18年に発表した「世界奴隷指数」によると、タイには人身売買の被害者が約61万人いる。
国連薬物犯罪事務所(UNODC)によると、その大部分は肉体労働に従事しているが、一部の女性と少女は性産業に送り込まれている。彼女たちは「何の見返りもなく消費されるだけだ」と、NPO「反人身売買同盟」(本部バンコク)のサンファシット・コンプラパン会長は言う。「これは性的搾取だ」
だが人身売買反対派が支持する犯罪化モデルには、セックスワーク擁護派から反対の声が高まっている。
犯罪化されても性産業の縮小にはつながらず、むしろセックスワーカーがもっと危険な環境で働くようになるだけだというのだ。性感染症や暴力、搾取のリスクが高まることを示す調査報告も増えている。
しかも犯罪化は差別につながる上に、多くのセックスワーカーは犯罪歴が付いて(勧誘しただけでも逮捕され得る)、他の仕事に就くことが難しくなり、かえって性産業に深くはまり込む恐れがある。
犯罪化で問題は解決しない
ワイツァーは、セックスワークを犯罪化してもその拡散は止められないとして、90年代のアメリカの麻薬戦争を引き合いに出す。麻薬常用者や末端の売人が厳しく取り締まられるようになったが、違法薬物の蔓延は止まらなかった。「完全な失敗だったという証拠がある」と、ワイツァーは語る。
タイでは昨年6月に、発足して間もない前進党のタンヤワット・カモンウオンワット下院議員が、セックスワークを合法化する法案を提出した。
合法的な売買春地区を設置するとともに、事業者をライセンス制にし、納税義務を課し、セックスワーカーの年齢や違法薬物の抜き打ち調査を実施することなど、詳細なルールを盛り込んだ法案だ。だが、合法化に反対するセックスワーカーもいる。
イギリスの著名なセックスワーカーで活動家のジュノー・マックは、潤っている業者は法規制を守る余裕があるが、個人営業のセックスワーカーは法的保護を受けられない恐れがあると主張する。従って合法化ではなく、非犯罪化して一般の仕事と同じように扱うべきだとマックは主張する。
ただ非犯罪化にも問題はあると、ワイツァーは指摘する。例えば、セックスワーカーを搾取する悪徳業者が放置されるというのだ。それでもセックスワーカーの社会復帰のためには、非犯罪化のほうが望ましいという声は少なくない。