国際関係論の基礎知識で読む「ウクライナ後」の世界秩序
THE POTENTIAL FOR CONFLICT
REUTERS/Kirill Braga
<現実主義・リベラリズム・構成主義の3つの視点で分析する、第3次世界大戦が起きるシナリオと「次なる世界」>
昨年9月の新学期から、世界中で大勢の学生が初めて国際関係論を学んでいる。近年の世界の変化に敏感な教授であれば、国際関係論の主な理論が大国間の紛争が迫っていることを警告していると教えているだろう。
何十年もの間、国際関係論は楽観的になれる理由を示してきた。主要国はおおむね協力的な関係を享受し、武力衝突を起こさずに自分たちの相違を解決できるだろう、と。
国際関係論のリアリズム(現実主義)によれば、冷戦下の二極世界と冷戦後のアメリカが支配する一極世界は比較的単純なシステムで、誤算による戦争は起きにくい。核兵器は紛争のコストを引き上げて、大国間の戦争を考えられないものにした。
一方、リベラリズムは、制度、相互依存、民主主義の3つの変数が協力を促進し、紛争の緊張を緩和すると考える。第2次大戦後に設立され、冷戦後も拡大し、信頼されている国際機関や協定(国連、WTO、核拡散防止条約など)は主要国が平和的に対立を解決する場を提供してきた。
さらに経済のグローバル化によって、武力紛争はあまりにもコストが高くなった。商売が順調で誰もが豊かなのに、なぜ争うのか。この理論でいけば、民主主義国はあまり争わずに協力することが多い。過去70年間に世界で起きた民主化の大きな波が、地球をより平和な場所にした。
そして社会構成主義は、新しい考えや規範、アイデンティティーが国際政治をよりポジティブな方向に変えてきたとする。かつては海賊行為や奴隷、拷問、侵略戦争が日常的に行われていた。だが大量破壊兵器の使用に関する人権規範が強まり、タブー視が高まって、国際紛争に歯止めを設けた。
とはいえ残念ながら、平和をもたらすこれらの力のほぼ全てが、私たちの目の前でほころびつつあるようだ。国際関係論において、国際政治の主要な原動力は米中ロの新たな冷戦が平和的に行われる可能性が低いことを示唆している。
まず、パワーポリティクスから見ていこう。私たちは、より多極化した世界に入りつつある。確かにアメリカは、ほぼ全ての客観的な指標で依然として世界をリードする主要国だが、中国は軍事力と経済力に関して強力な2番手に成長している。ヨーロッパは全体として経済と規制の巨人だ。攻撃的なロシアは、地球上で最大の核兵器を備蓄する。インドやインドネシア、南アフリカ、ブラジルなど開発途上世界の主要国は、非同盟路線を選択している。
リアリズムは、多極体制は不安定で、誤算から大きな戦争が起こりやすいと主張する。第1次大戦はその典型的な例だ。