最新記事

BOOKS

息を吸うように売春する女性たち──ホストクラブはかつてのAV業界、パチンコ業界と同じ道へ?

2023年3月1日(水)20時00分
印南敦史(作家、書評家)

ホストクラブに通う女性たちにとって、ホストクラブはホストとの疑似恋愛をするための場である。ホストは女性に恋愛感情を持たせ、恋した女性たちはお目当てのホストに会いに行く。しかしホストには、そんな女性から多くの売り上げを得る目的がある。


『ホス狂い』(大泉りか著/鉄人社)に「ホストにはさまざまな役割を担った"カノジョ"が存在する」という項目がある。ホストの女性たちに対するアプローチは非常に多彩である。同書にはおおよそ、次のように説明されている。
 まず本命のカノジョと思い込ませる「本営」、イチャイチャしたりデートしたりする「色カノ」、ホストがセックス目的の「ヤリカノ」、家を提供してもらう「家カノ」、店に呼ばれることのない「本カノ」、ホストがしんどいことや苦しいことをアピールして同情を誘う「病み営」、友達付き合いする「友営」、女性を育てる「育て営」、営業目的に同棲する「同棲営業」、将来的に結婚を約束する「結婚営業」などがあるという。(99ページより)

普通に見える女の子たちが並び、中年男性たちが品定めをする構図

ホストはターゲットの女性にホストクラブでよりお金を使わせるために、最も有効な関係性を考えて実行するわけだ。

本書においては、そうやって売春の世界に落ちていく女性たちの姿が赤裸々に描写されているのだが、それは昨今ネットに上がることの多い"歌舞伎町裏手の大久保公園と向かいの大久保病院の間の路地の現実"と見事にリンクする。

いかにも売春婦という感じではない"普通に見える女の子"たちがスマホの画面を眺めながらズラリと並び、その周辺で中年男性が品定めをしているという構図。初めてそれを目にしたときは奇妙な気がしたが、その背後には、「ホストに貢ぐために売春をしてお金を稼ぐ」という目的があったということだろう。

つまり、それこそが冒頭に引用した「歌舞伎町の多くの女性は失業や低収入ではなく、男に貢ぐために貧困化している」という一文が意味するところだ。


 歌舞伎町二丁目のホスト街には、女の子たちに限界を超えた消費をさせるシステムができ上がっていた。関わってしまった女の子たちは、唯一の価値である若い肉体を酷使し、過剰な消費に走って最終的には壊れていく。
 ホストを批判するわけではないが、昭和から平成に数々の女性たちを壊してきたアダルトビデオ業界、そして無数の依存症と経済破綻を生んだパチンコ業界は社会悪のターゲットとされて厳しい法規制が入っている。
 令和のホストクラブが同じ道をたどるのは、時間の問題だろうという印象を持った。(132ページより)

そもそも、女性たちの未来を破壊するシステムが当たり前のように存在していることに、私も大きな違和感を覚える。だからこそ今後の法規制には期待をかけたいところである。

なお、ここではホストクラブとホストのリスクにのみ焦点を当てたが、本書における著者の視野と取材力はそこにのみとどまるものではない。最も印象的だったのは、母親からの執拗な虐待、兄からの性被害などを経て歌舞伎町に落ちるしかなかった女性の話だ。

彼女がたどった悲惨な現実は筆舌に尽くし難いのだが、絶望の淵に立ちながら都庁のストリートピアノで好きなピアノを演奏していたとき、闇から這い上がるきっかけと出会う。

とても素敵な話なので、何が起こったのかをここに書いてしまいたいところだ。いや、実は書いてみたのだが、ここで輪郭をなぞるよりも実際に読んでいただきたいので消すことにした。


「ようやく自分を取り戻せた。自分の意見をちゃんと言えるようになったり、自分の人生を生きたいと思えるようになった。これからの人生は自分で決めて、自分で責任を持とうって」(219〜220ページより)

ヒントはこれだけだ。前章までの話が生々しすぎるだけに、最終的に大きく救われるエピソード。ぜひとも、実際に読んでいただきたい。


歌舞伎町と貧困女子
 中村淳彦 著
 宝島社新書

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)


[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「WEBRONZA」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。ベストセラーとなった『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)をはじめ、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。新刊は、『書評の仕事』(ワニブックス)。2020年6月、日本一ネットにより「書評執筆本数日本一」に認定された。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国自動車ショー、開催権巡り政府スポンサー対立 出

ビジネス

午後3時のドルは149円後半へ小幅高、米相互関税警

ワールド

米プリンストン大への政府助成金停止、反ユダヤ主義調

ワールド

イスラエルがガザ軍事作戦を大幅に拡大、広範囲制圧へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中