息を吸うように売春する女性たち──ホストクラブはかつてのAV業界、パチンコ業界と同じ道へ?
ホストクラブに通う女性たちにとって、ホストクラブはホストとの疑似恋愛をするための場である。ホストは女性に恋愛感情を持たせ、恋した女性たちはお目当てのホストに会いに行く。しかしホストには、そんな女性から多くの売り上げを得る目的がある。
『ホス狂い』(大泉りか著/鉄人社)に「ホストにはさまざまな役割を担った"カノジョ"が存在する」という項目がある。ホストの女性たちに対するアプローチは非常に多彩である。同書にはおおよそ、次のように説明されている。
まず本命のカノジョと思い込ませる「本営」、イチャイチャしたりデートしたりする「色カノ」、ホストがセックス目的の「ヤリカノ」、家を提供してもらう「家カノ」、店に呼ばれることのない「本カノ」、ホストがしんどいことや苦しいことをアピールして同情を誘う「病み営」、友達付き合いする「友営」、女性を育てる「育て営」、営業目的に同棲する「同棲営業」、将来的に結婚を約束する「結婚営業」などがあるという。(99ページより)
普通に見える女の子たちが並び、中年男性たちが品定めをする構図
ホストはターゲットの女性にホストクラブでよりお金を使わせるために、最も有効な関係性を考えて実行するわけだ。
本書においては、そうやって売春の世界に落ちていく女性たちの姿が赤裸々に描写されているのだが、それは昨今ネットに上がることの多い"歌舞伎町裏手の大久保公園と向かいの大久保病院の間の路地の現実"と見事にリンクする。
いかにも売春婦という感じではない"普通に見える女の子"たちがスマホの画面を眺めながらズラリと並び、その周辺で中年男性が品定めをしているという構図。初めてそれを目にしたときは奇妙な気がしたが、その背後には、「ホストに貢ぐために売春をしてお金を稼ぐ」という目的があったということだろう。
つまり、それこそが冒頭に引用した「歌舞伎町の多くの女性は失業や低収入ではなく、男に貢ぐために貧困化している」という一文が意味するところだ。
歌舞伎町二丁目のホスト街には、女の子たちに限界を超えた消費をさせるシステムができ上がっていた。関わってしまった女の子たちは、唯一の価値である若い肉体を酷使し、過剰な消費に走って最終的には壊れていく。
ホストを批判するわけではないが、昭和から平成に数々の女性たちを壊してきたアダルトビデオ業界、そして無数の依存症と経済破綻を生んだパチンコ業界は社会悪のターゲットとされて厳しい法規制が入っている。
令和のホストクラブが同じ道をたどるのは、時間の問題だろうという印象を持った。(132ページより)
そもそも、女性たちの未来を破壊するシステムが当たり前のように存在していることに、私も大きな違和感を覚える。だからこそ今後の法規制には期待をかけたいところである。
なお、ここではホストクラブとホストのリスクにのみ焦点を当てたが、本書における著者の視野と取材力はそこにのみとどまるものではない。最も印象的だったのは、母親からの執拗な虐待、兄からの性被害などを経て歌舞伎町に落ちるしかなかった女性の話だ。
彼女がたどった悲惨な現実は筆舌に尽くし難いのだが、絶望の淵に立ちながら都庁のストリートピアノで好きなピアノを演奏していたとき、闇から這い上がるきっかけと出会う。
とても素敵な話なので、何が起こったのかをここに書いてしまいたいところだ。いや、実は書いてみたのだが、ここで輪郭をなぞるよりも実際に読んでいただきたいので消すことにした。
「ようやく自分を取り戻せた。自分の意見をちゃんと言えるようになったり、自分の人生を生きたいと思えるようになった。これからの人生は自分で決めて、自分で責任を持とうって」(219〜220ページより)
ヒントはこれだけだ。前章までの話が生々しすぎるだけに、最終的に大きく救われるエピソード。ぜひとも、実際に読んでいただきたい。
『歌舞伎町と貧困女子』
中村淳彦 著
宝島社新書
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[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「WEBRONZA」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。ベストセラーとなった『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)をはじめ、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。新刊は、『書評の仕事』(ワニブックス)。2020年6月、日本一ネットにより「書評執筆本数日本一」に認定された。