最新記事
中東

イラク戦争開戦から20年 内戦、IS支配を経てバグダッドに戻った自由な日常

2023年3月20日(月)11時39分
ロイター
バグダッドの街角でタバコを吸う人

2003年の米軍によるイラク侵攻から20年。政治的、物理的な壁を乗り越える人々が増えたことで、イラク国民はバグダッドに自由が戻りつつあると期待している。写真はバグダッドの街角でタバコを吸う人。2月3日撮影(2023年 ロイター/Thaier Al-Sudani)

兵士から画家に転じたモウアヤド・モーセンさん(58)は、2003年の米軍によるイラク侵攻後、住んでいた地域が米軍と反乱軍の激しい戦いによって幾度も攻撃され、バグダッド中心部のアパートに引っ越しを余儀なくされた。昔の家が懐かしく、壁に囲まれた今の暮らしは大嫌いだが、仕方がない。

モーセンさんのような話は、至るところに転がっている。

フセイン政権時代、イラクでは内戦や1991年の湾岸戦争、その後の国家による虐殺などで大勢の人の命が奪われた。だが、こうした独裁政権下でも、招集や逮捕を免れた人々は街を行き来し、カフェやレストランに集っておいしい食事を楽しんだりしていた。

米軍の侵攻後、全ては一変した。

内戦状態に続き、2014年から17年までは武装勢力「イスラム国」がイラク北西部の大半の都市を支配下に置き、数千人を殺害。人殺しや誘拐が日常茶飯事となった。

バグダッドの各地域は宗派や民兵組織ごとに分かれ、モーセンさんが住む地区などは、混乱を避けるためコンクリートの壁に囲まれた。市民は、壁の向こうや家の中に隠れて暮らすようになった。

自由な場所を求めて国外に脱出した者もいれば、暴力がトラウマになり、安全が守られるなら壁に囲まれて暮らす方がましだと考える人たちもいる。

行き先を聞かれる環境

バグダッドには検問所が点在し、軍の装甲車が行き来する。道沿いには爆弾の衝撃を吸収するための爆風壁が張り巡らされ、ビルや住居をふさいでいる。

「軍の兵舎に暮らしているようだ」と語るのは、カフェで友人とカードゲームをしていたナジャ・ハディさん(63)だ。「誰もが『行き先はどこだ』と聞いてくる」という。

ハディさんによると、幼なじみの大半は暴力を逃れるために国外脱出を余儀なくされた。今では彼らに会うため、検問所を通らねばならない。

とは言え、以前に比べればイラクも平和になった。昨年は親イラン勢力が政権を樹立し、1年余りにわたる政治の膠着(こうちゃく)状態に終止符が打たれた。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ米大統領、日韓などアジア歴訪 中国と「ディ

ビジネス

ムーディーズ、フランスの見通し「ネガティブ」に修正

ワールド

米国、コロンビア大統領に制裁 麻薬対策せずと非難

ワールド

再送-タイのシリキット王太后が93歳で死去、王室に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 2
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任務戦闘艦を進水 
  • 3
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元に現れた「1羽の野鳥」が取った「まさかの行動」にSNS涙
  • 4
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 5
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 6
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 7
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 8
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 9
    為替は先が読みにくい?「ドル以外」に目を向けると…
  • 10
    アメリカの現状に「重なりすぎて怖い」...映画『ワン…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 3
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 4
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中