最新記事

米ロ国境

中ロの領土的野心でアラスカが米本土防衛の最前線に

Alaska Has Become the Front Line for U.S. Global Tensions

2023年2月16日(木)16時18分
ジェームズ・ビッカートン

ロシアの東端、アラスカの向かいに位置するチュクチ半島の集落。米ロ国境の間はわずか86キロしか離れていない Andrei Stepanov-Shutterstock

<米軍が多くの基地を置き、外敵の接近を監視するための要衝でもあるアラスカは、同時にロシアや中国から最も近いアメリカでもある。領土「奪還」を狙うロシア、北極圏へのアクセスを求める中国と新たな緊張が生まれる>

2月10日、米軍の戦闘機がアラスカ沖の上空で未確認物体を撃墜した。民間機の航行を脅かすおそれがあると判断したためだ。

この作戦は、中国のスパイ気球がサウスカロライナ州東部沖の大西洋上で撃墜されてからわずか6日後に実施された。その後も11、12日にカナダのユーコン準州とヒューロン湖上空で、相次いで2つの未確認物体が撃ち落とされた。

これらは中国、ロシア両国とアメリカとの間で緊張が高まるなかで起きた出来事だ。アラスカ州はハワイも含めた全米50州の中で中ロ2国に距離的に最も近い位置にある。ロシアとはベーリング海峡を挟んで向かい合うが、海峡の最狭部ではわずか86キロ程しか離れていない。

アメリカが主要な地政学的ライバルである中ロと対峙する上でアラスカ州が果たす重要な役割について、本誌は米シンクタンク・外交問題評議会のグローバル統治部門に所属するエスター・ブリマー上級研究員に話を聞いた。

北極圏への進出を狙う中国

「アラスカは北極圏に通じるアメリカの玄関口でもある。人口は73万人余り。米空軍、陸軍、沿岸警備隊、宇宙軍の基地がある。面積は全米50州の中で最大で、外来の脅威を監視する上で戦略的な重要性を持つ場所がいくつもある。特にアメリカの飛び地であるアラスカ州とロシアは、太平洋と大西洋を結ぶ幅の狭い国際水路、ベーリング海峡を挟んで向かい合っている」

ブリマーによれば、中国は今世紀に入って「砕氷船を建造するなど北極地方に関心を示し始めた」という。「北極地方は陸も海も自然の宝庫であり、エネルギー資源も豊富に眠る。空も、商用航空などの重要な航路になっている」

カザフスタンやジョージア駐在の米大使を務めた元外交官で、現在は米シンクタンク・ランド研究所の上級研究員であるウィリアム・コートニーは、アメリカ本土の防衛でアラスカは重要な中継地になると本誌に述べた。

「アラスカ州には、北朝鮮がアメリカ本土に向けて発射した弾道ミサイルを探知して迎撃するレーダーと地対空ミサイルシステムなど重要な軍事施設がある」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

仏大統領、イスラエルのヒズボラ攻撃「正当化できず」

ワールド

ロシア「エネ施設攻撃停止から撤退も」、ウクライナ違

ビジネス

英小売売上高、2月は前月比+1.0 非食品好調で予

ビジネス

ユーロ圏インフレ率、貿易戦争巡る懸念でも目標達成へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 6
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 7
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 8
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 9
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 7
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 8
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 9
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中