中ロの領土的野心でアラスカが米本土防衛の最前線に
Alaska Has Become the Front Line for U.S. Global Tensions
ロシアの東端、アラスカの向かいに位置するチュクチ半島の集落。米ロ国境の間はわずか86キロしか離れていない Andrei Stepanov-Shutterstock
<米軍が多くの基地を置き、外敵の接近を監視するための要衝でもあるアラスカは、同時にロシアや中国から最も近いアメリカでもある。領土「奪還」を狙うロシア、北極圏へのアクセスを求める中国と新たな緊張が生まれる>
2月10日、米軍の戦闘機がアラスカ沖の上空で未確認物体を撃墜した。民間機の航行を脅かすおそれがあると判断したためだ。
この作戦は、中国のスパイ気球がサウスカロライナ州東部沖の大西洋上で撃墜されてからわずか6日後に実施された。その後も11、12日にカナダのユーコン準州とヒューロン湖上空で、相次いで2つの未確認物体が撃ち落とされた。
これらは中国、ロシア両国とアメリカとの間で緊張が高まるなかで起きた出来事だ。アラスカ州はハワイも含めた全米50州の中で中ロ2国に距離的に最も近い位置にある。ロシアとはベーリング海峡を挟んで向かい合うが、海峡の最狭部ではわずか86キロ程しか離れていない。
アメリカが主要な地政学的ライバルである中ロと対峙する上でアラスカ州が果たす重要な役割について、本誌は米シンクタンク・外交問題評議会のグローバル統治部門に所属するエスター・ブリマー上級研究員に話を聞いた。
北極圏への進出を狙う中国
「アラスカは北極圏に通じるアメリカの玄関口でもある。人口は73万人余り。米空軍、陸軍、沿岸警備隊、宇宙軍の基地がある。面積は全米50州の中で最大で、外来の脅威を監視する上で戦略的な重要性を持つ場所がいくつもある。特にアメリカの飛び地であるアラスカ州とロシアは、太平洋と大西洋を結ぶ幅の狭い国際水路、ベーリング海峡を挟んで向かい合っている」
ブリマーによれば、中国は今世紀に入って「砕氷船を建造するなど北極地方に関心を示し始めた」という。「北極地方は陸も海も自然の宝庫であり、エネルギー資源も豊富に眠る。空も、商用航空などの重要な航路になっている」
カザフスタンやジョージア駐在の米大使を務めた元外交官で、現在は米シンクタンク・ランド研究所の上級研究員であるウィリアム・コートニーは、アメリカ本土の防衛でアラスカは重要な中継地になると本誌に述べた。
「アラスカ州には、北朝鮮がアメリカ本土に向けて発射した弾道ミサイルを探知して迎撃するレーダーと地対空ミサイルシステムなど重要な軍事施設がある」