最新記事

育児

話を聞かない親×聴いてほしい子ども、親子の危機をすくう「聴く技術」3つの極意

2023年2月9日(木)18時18分
寺田和代

自分の声が受け止められる経験の多寡がのちに影響を

人は子どもに限らず、老若男女だれしも自分をわかってほしい、と切望している。話をわかってもらえてないと感ずると疎外感を感じ、相手を説き伏せたいと思い、反発しやすくもなる。保育園から高齢者施設まであらゆる世代の集団で日常的に見られる光景だ。

なかには人生の早い時期に身につけた人間へのシニカルな見方が、人生を通じた信念になってしまったのではと感ずる人も。それほどに、人が最初に出会う他者(親)との関係において自分の声が受け止められる経験の多寡やその質が、のちのちの対人関係に影響する。

では親が子にできることはなんだろう。大人は案外子どもの話を聴けていないと認識することから、と著者。なぜ聴けないのか。子どもは大人が教えて形成すべき存在という決めつけや、この子はこういう子というネガティブな思い込みゆえに、目の前の子どもの姿を無意識に否定してしまいがちだからだ。

例えば、子どもが先生に怒られたと文句を言った時に「どうせあなたがなにかしたからでしょう」と批判してしまう。確証バイアスと呼ばれるこの決めつけは自分では気づきにくいため、子どもの声や本来の姿を歪ませたまま成長させてしまうことになりかねない。

あるいは、子どもが直面した問題に親がしゃしゃり出て本人の問題解決能力を妨げたり、自分のストレスをそのまま子にぶつけてしまったり、親自身がスマホ操作に気を取られすぎて子どもの姿を見失ったり。あるある......、と思わず頷く人は多いはず。

子を思う親の行為が間違うはずがない、という思いこみを捨て、子どもの言葉を虚心坦懐に聴くという自覚と覚悟を持つことが、子育てにおけるアクティブリスニングの第一歩になる。

大人自身が自らに思いやりを持って接する姿を見せる

本著ではさらに子の話を虚心坦懐に聴くための具体的なアドバイスや、自分の聴き方がどんな傾向を持つか気づけるよう案内される。愛や優しさや思いやりといったふわっとした「気持ち」の子育て論ではなく、その気持ちを伝える方法が技術としてロジカルに解説されている点が心強く、信頼できる。

子の良い聴き手になれるよう導かれつつ、親もまた弱さを抱えた一人の人間に過ぎないという不安への目配りにも励まされる。

「大人も自分の気持ちやニーズに耳を傾ける」大切さに触れ、「大人自身が日常的に自らに思いやりを持って接する姿(セルフケア)を見せることも、子どもが自己を大切にするお手本になる」と結ばれた終章に至っては、共感のあまりジーンとなってしまったほど。

本著は子育てのガイドブックでありながら、なん歳の、どんな立場の人にとっても、「聴くこと」で目の前の人間関係をよりよく変えていくための必携テキストになってくれるだろう。

「助言せず」「さえぎらず」「ジャッジせず」。

良い聴き手であることは、相手にも自分にも関係そのものにも力をもたらし、それらすべてを成長させてくれるのだ。


島村華子 Shimamura Hanako

モンテッソーリ教育とレッジョ・エミリア教育研究者。上智大学卒業後、カナダのバンクーバーに渡り国際モンテッソーリ協会(AMI)の教員資格免許を取得。カナダのモンテッソーリ幼稚園での教員生活を経て、英国オックスフォード大学にて児童発達学修士号、教育学博士号を取得。現在はカナダの大学にて幼児教育の教員養成にかかわる。専門分野は動機理論、実行機能、社会性と情動の学習、幼児教育の質評価、モンテッソーリ教育、レッジョ・エミリア教育法。著書に『自分でできる子に育つ ほめ方 叱り方』、『モンテッソーリ教育の研究者に学ぶ 子育てがぐっとラクになる「言葉がけ」のコツ』がある。


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア政府系ファンド責任者、今週訪米へ 米特使と会

ビジネス

欧州株ETFへの資金流入、過去最高 不透明感強まる

ワールド

カナダ製造業PMI、3月は1年3カ月ぶり低水準 貿

ワールド

米、LNG輸出巡る規則撤廃 前政権の「認可後7年以
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中