放火、強姦、死者1000人超...インド史に残る「黒歴史」を蒸し返されたモディ首相の怒り
Modi’s Hidden Past
これを機に、過激なヒンドゥー教徒によるイスラム教徒の襲撃が始まった。当時、グジャラート州の州首相だったモディは、列車火災の犠牲者の遺体を最大都市アーメダバードに運ばせており、これがヒンドゥー原理主義者たちを刺激したという声もある。
イスラム教徒の商店は略奪の標的となり、住宅は放火され、多くの女性が集団レイプに遭った。元国会議員が自宅前で殺される事件も起きた。
BBCの番組は、モディがこうした暴力を取り締まらなかったと主張する。それどころか、イスラム教徒に暴挙を働いても「罪に問われない風潮」をつくり出して、暴力を拡大させた「直接的な責任がある」と断じている。
当時、インドの人々はこの事件のニュースに驚愕した。国際社会からも非難が殺到した。だが、BJPを率いていたアタル・ビハリ・バジパイ首相は、野党や市民団体からモディの更迭を求める声に対して、「モディは州首相としての責務をきちんと果たすべきだ」と述べるにとどまった。
BBCを動かした報告書
その後、モディは州議会を解散したが、新たな選挙でも勝利を収めた。そして13年には国政に進出する意欲を明らかにし、14年の総選挙でBJPを大勝に導いた。インド議会で、1つの政党が単独過半数を確保するのは30年ぶりだった。19年の総選挙で、BJPはさらに議席を伸ばした。
BBCの『モディ問題』は記録映像をはじめ、インドの専門家や暴動の生存者へのインタビューを織り交ぜて、グジャラート騒乱におけるモディの責任を追及する。
なかでも重要なのは、事件当時イギリスの外相だったジャック・ストローのインタビューだろう。ストローは当時、イギリスの在インド高等弁務官事務所(大使館に相当)が、事件について独自調査を行ったと証言している。
BBCは、この調査結果をまとめた英政府の秘密報告書を入手。イスラム教徒に対する暴力は「報道を大幅に上回る」範囲に及んだこと、その目的は「ヒンドゥー教徒居住区域からイスラム教徒を追い出すこと」だったとする報告書の該当部分を放送した。
さらに、実際の犠牲者は政府発表の1044人をはるかに上回り、警察はイスラム教徒に対する暴力を取り締まらないよう指示を受け、そして暴力のゴーサインは「間違いなくモディから出されていた」という報告書の内容も紹介された。
それでもモディが、事件の責任を認めることはないだろう。既にインド政府は事実上、モディには一切責任がないとする独自の調査報告書をまとめており、昨年6月にはインド最高裁が報告書の正当性を認める判決を下している。