最新記事

インド

放火、強姦、死者1000人超...インド史に残る「黒歴史」を蒸し返されたモディ首相の怒り

Modi’s Hidden Past

2023年2月1日(水)18時02分
サリル・トリパティ

これを機に、過激なヒンドゥー教徒によるイスラム教徒の襲撃が始まった。当時、グジャラート州の州首相だったモディは、列車火災の犠牲者の遺体を最大都市アーメダバードに運ばせており、これがヒンドゥー原理主義者たちを刺激したという声もある。

イスラム教徒の商店は略奪の標的となり、住宅は放火され、多くの女性が集団レイプに遭った。元国会議員が自宅前で殺される事件も起きた。

BBCの番組は、モディがこうした暴力を取り締まらなかったと主張する。それどころか、イスラム教徒に暴挙を働いても「罪に問われない風潮」をつくり出して、暴力を拡大させた「直接的な責任がある」と断じている。

当時、インドの人々はこの事件のニュースに驚愕した。国際社会からも非難が殺到した。だが、BJPを率いていたアタル・ビハリ・バジパイ首相は、野党や市民団体からモディの更迭を求める声に対して、「モディは州首相としての責務をきちんと果たすべきだ」と述べるにとどまった。

BBCを動かした報告書

その後、モディは州議会を解散したが、新たな選挙でも勝利を収めた。そして13年には国政に進出する意欲を明らかにし、14年の総選挙でBJPを大勝に導いた。インド議会で、1つの政党が単独過半数を確保するのは30年ぶりだった。19年の総選挙で、BJPはさらに議席を伸ばした。

BBCの『モディ問題』は記録映像をはじめ、インドの専門家や暴動の生存者へのインタビューを織り交ぜて、グジャラート騒乱におけるモディの責任を追及する。

なかでも重要なのは、事件当時イギリスの外相だったジャック・ストローのインタビューだろう。ストローは当時、イギリスの在インド高等弁務官事務所(大使館に相当)が、事件について独自調査を行ったと証言している。

BBCは、この調査結果をまとめた英政府の秘密報告書を入手。イスラム教徒に対する暴力は「報道を大幅に上回る」範囲に及んだこと、その目的は「ヒンドゥー教徒居住区域からイスラム教徒を追い出すこと」だったとする報告書の該当部分を放送した。

さらに、実際の犠牲者は政府発表の1044人をはるかに上回り、警察はイスラム教徒に対する暴力を取り締まらないよう指示を受け、そして暴力のゴーサインは「間違いなくモディから出されていた」という報告書の内容も紹介された。

それでもモディが、事件の責任を認めることはないだろう。既にインド政府は事実上、モディには一切責任がないとする独自の調査報告書をまとめており、昨年6月にはインド最高裁が報告書の正当性を認める判決を下している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EU・仏・独が米国非難、元欧州委員らへのビザ発給禁

ワールド

ウクライナ和平の米提案をプーチン氏に説明、近く立場

ワールド

パキスタン国際航空、地元企業連合が落札 来年4月か

ビジネス

中国、外資優遇の対象拡大 先進製造業やハイテクなど
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 2
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 8
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 9
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 10
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中