最新記事

地球

地球の深度150キロに新たな層が検出される プレートテクトニクスの考え方に影響

2023年2月14日(火)18時30分
青葉やまと

地球の深さ150キロの領域に溶けた柔らかい岩石の層「PVG-150」が広く分布していることがわかった Vadim Sadovski-shutterstock

<地球の深さ150キロの領域に、溶けた柔らかい岩石の層「PVG-150」が広く分布しており、プレートテクトニクスのモデルに影響を与える可能性があることがわかった......>

テキサス大学オースティン校の研究チームが、地球の深さ150キロの領域に、溶けた柔らかい岩石の層「PVG-150」が広く分布していることを検出した。

こうした性質の層はこれまで一部地域で確認されていたが、例外的な存在だとみなされてきた。今回の研究により、地球の44%以上の広い領域に存在することが判明した。

また、この層の分布域とプレートテクトニクスの発生領域に相関がみられないことから、溶けた岩石の層が従来考えられていたほど大陸の移動に関与していないことも分かってきた。

このため、プレートの移動をモデル化する際、軟岩質の層の存在をほぼ無視できる可能性がある。将来的にプレートテクトニクスのモデルを改善し簡素化できるのではないかと期待されている。

研究はテキサス大学オースティン校ジャクソン地球科学大学院のジュンリン・フア博士(地球科学)らのチームが進めた。研究論文が査読付き学術誌『ネイチャー・ジオサイエンス』に掲載され、2月6日にオンラインで公開されている。

プレートを動かす柔らかい層の一部に、溶融した岩石の層を発見

私たちはふだん、地球の最も外側の部分にあたる地殻の上に暮らしている。その下には、マントル、外核、内核が存在する。

今回新たに発見された溶融層は、地表から約150キロ下に位置する。これは、上部マントルの一部に相当する領域だ。プレートとほぼ同義の硬い「リソスフェア」と呼ばれる領域の下に位置し、柔らかく流動的な「アセノスフェア」の一部を構成している。地殻プレートの移動を引き起こしている部分だ。

これまでにも、アセノスフェアの一部に溶けた岩石の層が存在する例は知られてきたものの、局所的で例外的な事象だと考えていた。今回の研究では、PVG-150と名付けられたこの層が地球の44%以上という広い範囲に広がっていることが明らかになった。

230207124037-01-earth-molten-rock-layer-graphic.jpg

プレートを動かす柔らかい層の一部に、溶融した岩石の層を発見 (斑点のある赤で描かれている)。Junlin Hua and Karen Fischer

「CTスキャンのように」地震波から内部を解析

地球内部を直接調査することは難しい。そこでフア博士たちのチームは定石に則り、地震波が地球内部を伝わる速度を調べることで内部の層を解析した。フア博士は米CNNに対し、「病院でのCTスキャンにも似ていますね」と例えている。

地震波が溶けた層を通過する際、その速度は緩やかになる。チームは世界各地の地震計から700件以上の観測データを集め、伝播速度の違いを利用してアステノスフェアの世界地図を作成した。

すると、これまで局所的な存在だと考えられていた溶けた岩石の層は、地球の広い地域に分布していることが判明した。

研究を主導したフア博士は、米メディアのヴァイスの取材に対し、「いかに広範囲に及んでいるかということに、少し驚きました」と語っている。

研究チームはこのゾーンを「PVG-150 (Positive Velocity Gradient at 150 km)」と命名した。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 6
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 9
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中