最新記事

中国経済

「脱コロナ」後の中国経済、真に重要なのは国民の所得・生活の質 GDP成長率へのこだわりは捨てるべき

WILL CHINA BOUNCE BACK

2023年1月17日(火)13時00分
魏尚進(ウエイ・シャンチン、コロンビア大学経営大学院教授、元アジア開発銀行チーフエコノミスト)
習近平

習近平国家主席にとって今後の最優先課題は国内経済の再生だ TINGSHU WANGーREUTERS

<ゼロコロナ政策を撤回した中国政府が取り組むべき短期・中期・長期の経済政策とは>

さすがの中国政府も、ついにゼロコロナ政策を撤回した。これで中国経済は回復軌道に乗るという観測がある。現に英エコノミスト誌の調査部門であるエコノミスト・インテリジェンス・ユニットは、2023年の中国のGDP成長率予測を4.7%から5.2%に上方修正した。

だがゼロコロナの解除だけで成長が戻るわけではない。短期的には景気の先行きに関する企業や家計の信頼を取り戻し、中期的には生産性を向上させ、長期的には少子化対策にも取り組まねばならない。

まず、短期で重要なのは緩和的政策よりも信頼の回復だ。厳しい外出制限が繰り返されたことで、雇用や収入の心配から庶民の消費意欲は低下し、企業は減収や規制強化への懸念から投資を控える傾向にある。上海にあるビジネススクール「中欧国際工商学院」が最近実施した調査によれば、中国で事業を展開する企業の景況感はこれまでで最低の水準に沈んでいる。

悲観論は悪循環を招く。多くの企業や世帯が先行き不安から支出を減らせば、あらゆる製品やサービスに対する需要が一段と減る。そうなると、いずれは川上のサプライヤーも打撃を受ける。この悪循環を断ち切るには、まず信頼の回復が急務だ。

しかし中国政府の打てる手には限界がある。政策の方向性が見えやすくなれば信頼の回復に役立つが、政府の声明だけで政策の方向性が見えるものではない。信用供与を拡大すれば総需要は増えるだろうが、その一方でインフレを加速させるという望ましくない影響も懸念される。

そこで検討すべきなのが、消費税と法人税の期限付き減税だ。一時的な消費減税であれば財政へのネガティブな影響は避けられ、むしろ個人消費を刺激できる可能性がある。法人減税も、期限が設定されているのであれば内部留保には向かわず、投資を促す効果が期待できよう。

次は中期。生産性の向上を促すには、今まで以上に効果的な資源の配分が必要となる。例えば戸籍制度(戸口制度)の縛りを緩めれば人的資源をより効率的に配置でき、結果として格差の是正につながる。金融機関からの融資や政府の許認可に関して、国有企業と民間企業の間の差別を解消することも必要だろう。

また過去の経験に学んで、市場参入や起業に当たっての障壁を除去することも重要だ。国の経済成長率は既存企業の規模(平均値)と新興企業の数の増大に依存するが、筆者が北京大学の張暁波(チャン・シアオポー)教授と共同で行った調査からは、中国の場合はGDP拡大の約70%が新興企業の増加に起因することが分かっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRB0.25%利下げ、3会合連続 3人が決定に反

ビジネス

FRBに十分な利下げ余地、追加措置必要の可能性も=

ビジネス

米雇用コスト、第3四半期は前期比0.8%上昇 予想

ワールド

米地裁、トランプ氏のLAへの派兵中止命じる 大統領
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 2
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 3
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎の物体」の姿にSNS震撼...驚くべき「正体」とは?
  • 4
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 5
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    「正直すぎる」「私もそうだった...」初めて牡蠣を食…
  • 8
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 9
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 10
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中