「世界一鮮やかな色!?」......生物をヒントに塗料では不可能な鮮やかな色が開発された
豊かな色彩、自ら作ったアート作品で証明
パーカー氏は科学者であると同時に、アーティストでもある。米CNNは2021年の時点ですでに、アート分野で構造色を活用する氏の活動を報じている。ロンドンのキュー王立植物園では同年9月まで、『Naturally Brilliant Colour(ありのままに鮮やかな色)』展が開催された。
漆黒の壁で囲まれた会場に足を踏み入れると、そこにはパーカー氏が開発したピュア構造色を用いた色彩豊かなアート作品が展示されている。蝶の羽や花びらなどを再現した鮮やかなオブジェや、ビッグバンに着想を得た絵画作品などを鑑賞できる。
いずれも鑑賞者の視線と物体表面との角度に応じて、トーンが繊細に変化してゆく。ひとつの作品であっても、中央部から縁に移るにつれ視線の角度が異なることから、なだらかなグラデーションを描くように色相が変化し、異なる表情を見せる。
CNNはピュア構造色の謳い文句を引用し、「地球上で最も目立ち、輝く色」だと紹介している。記事に添えられた写真からも、鮮やかな発色がありありと感じられる。実物を両眼視した場合には視差が生じ、さらに複雑な色味の融合を感じられることだろう。
健康や環境対策でも利点
パーカー氏はピュア構造色が、健康問題や環境問題の観点においても有効な切り札となると考えている。市販の顔料には、人体に有害な溶剤や樹脂などが添加されているものも少なくない。乾燥に伴いベンゼンやホルムアルデヒドなどの揮発性有機化合物を放出するほか、マイクロプラスチックの発生源ともなる。
一方、パーカー氏によるとピュア構造色は、地殻や石英の成分などとして自然界に存在する二酸化ケイ素などから作られる。さらに、従来の塗膜にあたる発色構造の層を非常に薄くできることから、採用する製品の最終重量を軽量化できるという。
たとえばジャンボジェットの外装の塗装として実用化できれば、重量の1トン削減が見込まれ、CO2排出量を削減することが可能だという。スミソニアン誌によると、顔料にナノ構造の薄片を混ぜ込む方法がすでに発見されており、欧州の航空会社から氏のもとに打診が来ている。
CNNは、芸術と科学の分野はときに対極のように感じられることもあると指摘しながらも、ピュア構造色は「両分野の相互作用が、双方にとって革命を引き起こす可能性があることを物語っている」と述べている。
科学者として開発に携わり、同時にアーティストとしてその価値を理解するパーカー氏だからこそ、困難な開発を20年以上も継続できたのかもしれない。