最新記事

野生動物

ダイバーによるジンベエザメへの許されざる振る舞い...SNS動画に専門家から怒りの声

Man Filmed Riding World's Biggest Shark in Tourism Stunt

2022年12月4日(日)20時05分
ジェス・トムソン

スウェーデンのイェーテボリ大学で、生態学および人間が生態系に与える影響を研究するダイラ・キャロルは、「ジンベエザメにとって、海面での時間はきわめて重要だ。それは、人間が激しい運動の合間に休憩を挟む必要があるのと同じことだ。その時間を人間が妨害すれば、ジンベエザメにはストレスがかかり、十分に休む前に再び潜らざるを得なくなる」と説明する。

「こうしたことが一度起きるだけで、ジンベエザメには、次に潜ったときに怪我を負うリスクが生じる。一生を通じて積み重なっていけば、早死にしたり、生まれる子どもの数が減ったりする状況を招きかねない。つまりこの行為は、絶滅の危険がある生物の減少に直結しているのだ」

動画のジンベエザメには特に悪影響が大きい

動画に映っているジンベエザメには、特にこのことが当てはまるとキャロルは言う。このサメはまだ若いからだ。「ジンベエザメの一生では、ほかのどの年代よりも、若いときこそ、水温の高い浅い海で時間を過ごす必要がある。その時に(動画のような)ストレスのかかる場面に遭遇すれば、このジンベエザメは二度とこのエリアに近寄らないかもしれない」とキャロルは話す。

ダイビングやシュノーケリングに挑戦して、邪魔にならない位置から、世界最大の魚類であるジンベエザメを見てみたいと考える人は多い。だが動画の男性の行為は、将来的にジンベエザメの姿を自分の目で見たいと願う人たちにも悪影響を及ぼすかもしれない。「サメは、人間に接近しすぎてしまう場所を少しずつ認識するようになる」とキャロルは言う。

「ある場所で、人間がサメに何度も接近しているうちに、サメがそこを避けるようになるのを幾度も目にしている。動画の人物は、サメに害を加えているだけではない。のちのちこの場所を訪れる多数の観光客が、野生動物との出会いで人生が一変するような体験ができる機会をも奪っている」

キャロルは、ジンベエザメのような海洋生物と一緒に泳いでみたいと考えている人に対して、こうアドバイスしている。少なくとも4メートルの距離を置くこと。つねに動物の背後か横にいるようにし、前には絶対に出ないこと。可能な限り音を立てないこと。写真を撮るときはフラッシュを使わないこと。カメラのフラッシュは、動物を怖がらせたり、目にダメージを与えたりする可能性があるからだ。

「野生動物との遭遇で、何にもまして重要なのは、野生動物と、ほかの人間の両方を尊重することだ」とキャロルは言う。「人間が分別をもって接しさえすれば、サメは健康に長生きできるし、ほかの人たちも素晴らしい出会いを体験できるだろう。野生動物を虐待したり、負担をかけたりすることは、動物にとって害になるだけではない。野生動物を愛する人から、出会いの機会を奪ってしまうことにもなる」
(翻訳:ガリレオ)

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

フィリピン副大統領弾劾訴追案、下院が承認 上院に送

ワールド

インドネシア、24年成長率は3年ぶり低水準の5.0

ビジネス

24年金需要は1%増で過去最高、今年も不確実性が下

ビジネス

野村HDの10―12月期、主要3部門の税前利益8割
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国経済ピークアウト
特集:中国経済ピークアウト
2025年2月11日号(2/ 4発売)

AIやEVは輝き、バブル崩壊と需要減が影を落とす。中国「14億経済」の現在地と未来図を読む

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「体が1日中だるい...」原因は食事にあり? エネルギー不足を補う「ある食品」で賢い選択を
  • 2
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」を予防するだけじゃない!?「リンゴ酢」のすごい健康効果
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    マイクロプラスチックが「脳の血流」を長期間にわた…
  • 5
    中国AI企業ディープシーク、米オープンAIのデータ『…
  • 6
    教職不人気で加速する「教員の学力低下」の深刻度
  • 7
    脳のパフォーマンスが「最高状態」になる室温とは?…
  • 8
    「靴下を履いて寝る」が実は正しい? 健康で快適な睡…
  • 9
    DeepSeekが「本当に大事件」である3つの理由...中国…
  • 10
    AIやEVが輝く一方で、バブルや不況の影が広がる.....…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」を予防するだけじゃない!?「リンゴ酢」のすごい健康効果
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 6
    「靴下を履いて寝る」が実は正しい? 健康で快適な睡…
  • 7
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 8
    老化を防ぐ「食事パターン」とは?...長寿の腸内細菌…
  • 9
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 10
    「やっぱりかわいい」10年ぶり復帰のキャメロン・デ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 10
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中