ロヒンギャ難民船がインドネシアに相次ぎ漂着 ミャンマー脱出後各地で苦難続く
2017年8月にはバングラデシュとの国境に近いミャンマー治安組織の駐在所20カ所以上が襲撃され12人が死亡する事件が発生。ロヒンギャ族武装組織「アラカン・ロヒンギャ救世軍(ARSA)」が犯行声明をだした。
以後政府軍とARSAによる戦闘が激化する一方で、ロヒンギャ族難民は増加。バングラデシュに逃れた難民は約100万人に達する事態になった。
そして2021年2月1日にミン・アウン・フライン国軍司令官率いる軍によるクーデターでスー・チー率いる民主政府は転覆され、スー・チーら政府関係者は軍政によって逮捕、裁判の被告人として現在まで囚われの身となっている。
しかし、民主政権から軍政に変わってもロヒンギャ族そしてARSAへの弾圧や攻撃は継続され、ロヒンギャ族の厳しい立場は続いている。
さらに同じラカイン州で仏教徒が主体の少数民族ラカイン族の武装組織である「アラカン軍(AA)」も民主政府時代からの武装闘争を現在の軍政との間でも繰り広げている。
このようにスー・チーの民主政権、現在の軍事政権と政府は変わってもARSAやAAなど少数民族への差別、弾圧、攻撃は変わらず続いていることもミャンマーの治安悪化を招く要因となっている。
さらなるロヒンギャ族難民船が漂着
国際機関は12月23日にマレーシア、インドネシアなどの周辺国に対して「190人のロヒンギャ族難民が乗った小型船舶がアンダマン海海域で漂流している」として発見、救助の要請を出した。
この船は11月末にバングラデシュを出発し女性や子供が多く乗り組んでいるとしている。今回アチェ州に漂着した難民船は男性ばかりだったので国際機関が指摘する行方不明の難民船とは別とみられている。
アチェ州には11月にも女性など230人が乗った2隻の難民船が漂着している。またスリランカ海軍は12月にインド洋で漂流していた104人が乗った船舶を発見保護しているといい、現在もロヒンギャ族難民の海路での脱出が続いていることを裏付けている。
今回アチェに漂着した難民は「マレーシアを目指していた」と証言したように多くのロヒンギャ族難民はイスラム教国であるマレーシアで新生活を始めることを希望している。
しかしマレーシア政府はコロナ感染防止やロヒンギャ難民の中にARSAなどの武装組織メンバーが混入している可能性があることなどから多くの難民船を食料や飲料水を与えたうえで国際海域に追い返していた。2020年には22隻の難民船を追い返したといわれている。
こうしたことからインドネシアの中でも唯一イスラム法適用が許され、厳しいイスラム教の戒律が順守されているアチェ州を目指す難民船も増えているという。
海流の影響とこうした理由が重なってアチェへのロヒンギャ族難民は増加しており、アチェ州では収容所を設置して飲料水や食料、医療品を支援して保護に努めている。
国際機関などはロヒンギャ族難民の受け入れを国際社会に求めているが、マレーシアのようにコロナ感染防止対策や過激派組織の上陸回避のため、積極的な受け入れが実現していない実情がある。
こうした状況のなか、12月26日にはアチェ州ピディ県ウジュンパイ村の海岸に新たな船が漂着し、ロヒンギャ難民185人が保護された。
11月末にバングラデシュを出発し航海中に20人が死亡、遺体は海中に投棄したと証言しているという。185人は男性成人が83人、女性成人が70人、子供が32人となっており、行方不明の難民船との関係を現在国際機関や人権団体が確認中という。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など